研究課題/領域番号 |
21H03671
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
原 圭史郎 大阪大学, 大学院工学研究科, 教授 (30393036)
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研究分担者 |
北梶 陽子 広島大学, ダイバーシティ研究センター, 助教 (10781495)
黒田 真史 常葉大学, 社会環境学部, 准教授 (20511786)
倉敷 哲生 大阪大学, 大学院工学研究科, 教授 (30294028)
上須 道徳 大阪大学, 大学院経済学研究科, 教授 (50448099)
野間口 大 大阪大学, 大学院工学研究科, 准教授 (90362657)
渕上 ゆかり 大阪大学, 大学院工学研究科, 助教 (70712834)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | フューチャー・アセスメント手法 / 仮想将来世代 / 参加型評価・意思決定 / 評価の社会実装 / 社会共創 / サステイナビリティ |
研究実績の概要 |
22年度は、コロナ禍による制約はあったものの、実施可能な範囲で自治体での討議実践およびアンケート調査を実施した。具体的には、吹田市環境部環境政策室および水道部と連携し、「仮想将来世代」の仕組を導入した評価実践を行い、政策立案や行政評価に関する効果を検証した。 環境政策室との連携研究では、同室の職員15名の参加による、2050年カーボンニュートラル社会に向けた政策立案をテーマに、フューチャー・デザイン討議を10回(1回あたり約1時間)実施し、討議結果と参加者へのアンケート調査の結果から、仮想将来世代の導入効果を分析した。その結果、将来世代の視点で意思決定することによって、政策立案の優先順位に変化が生まれることや、参加した行政職員には、環境配慮型の行動変容のインセンティブが生じている可能性が示唆された。 水道部との連携では、市内の2000世帯を無作為抽出し、水道利用や水道料金に関する意識調査と仮想将来世代の導入効果の分析を目的に、大規模アンケート調査を実施した。また、水道部職員15名の参加の下、2050年をターゲットとした水道利用のあり方を描写し、今後取るべき政策を意思決定する討議実践を5回実施した。前者については、得られた回答データを基に統計解析を行ったところ、仮想将来世代の視点で水道問題を検討することによって、現在の視点から検討した場合と比較して、回答者(市民)の認識や意思決定に変化が起きうること(例:水道料金の値上げに対する許容度の高まり)を明らかにした。後者の討議実践からも同様に、仮想将来世代の導入効果について知見を得た。例えば、将来世代の視点から意思決定することにより、参加職員は、家庭レベルでの水道利用などユーザー側の立場をより考慮して評価や意思決定を行った可能性が示唆された。これらは新たな発見であり、アセスメント手法開拓において重要な知見となり得る。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナ禍の中でも、参加型討議実践(実験)を実施し、本研究テーマに資する、新規かつ重要な知見を得ることができており、順調に進展している。本研究では、参加型討議と大規模アンケート調査を、それぞれの利点を活かした補完的なアプローチとして採用しており、双方の分析結果から仮想将来世代の導入効果を検証している。そして、これらの分析結果を基に、将来世代視点を導入した新たなアセスメント手法の方法論開拓を進めている。これまで、討議実践および大規模アンケート調査それぞれからデータを回収し分析を進めており、その結果から本研究の目的に資する知見を獲得できている。 22年度は、水道インフラの維持管理問題(吹田市水道部と連携)、およびカーボンニュートラル実現のための政策デザイン(吹田市環境部環境政策室と連携)を議論テーマとして討議実践を行った。その結果、将来世代の視点を導入することによって、これらの各テーマに関する政策立案の優先順位や政策評価の判断基準、あるいは評価指標間の「重みづけ」が変化することを明らかにした。また、将来世代の視点から考察することによって、討議実践に参加する意思決定者の認知変化の傾向についても重要な知見を得ることができた。さらに、参加者の属性や志向性と、将来世代の視点獲得度合いとの関係性についても分析を進めてきた。具体的には、上述とは別の参加型討議実践から得られたデータを基に解析を行ったところ、仮想将来世代の仕組みを導入することによって、個人特性としてのCritical thinking(批判的思考)の強弱に依らず、「将来への危機意識」「社会目標の共有意識」「現世代の責任意識」などの認知が高まり得ることを明らかにした。 これらの知見を総合化することによって、本研究テーマである将来世代の視点を取り入れたアセスメント手法の開拓を着実に進めることが可能と考えている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究から、将来世代の視点から現在の意思決定を考察する「仮想将来世代」の方法を導入し、現世代と将来世代の両視点を取り入れた意思決定や政策評価の効果について分析を進めてきた。23年度は、自治体の行政計画の実例を対象として、自治体職員が参加する行政評価(アセスメント)に関する意思決定の実践を行い、仮想将来世代導入の有効性や新たな研究課題、本手法を行政応用する際の条件や検討課題などを整理し、世代の概念を取り入れた新たなアセスメント手法の基盤構築を進める。
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