研究課題
スピンの高次自由度であるベクトルスピンカイラリティが担うトポロジカル転移について、van der Waals磁性体NiGa2S4の偏極中性子散乱実験結果の解析を進めた。この物質では、スピン揺らぎが急激に律速化しMHz程度に留まる異常について、その機構が永らく謎のままであった。今回、偏極中性子散乱実験により、面内と面直の磁気モーメント成分を分離し、異常温度を境としてその異方性が変化することを突き止めた。このような異常は通常の磁気秩序や他の機構にも例がなく、理論計算と組み合わせることでその原因を探った。その結果、この異常はベクトルスピンカイラリティの作る渦がKosterlitz-Thouless的な凝集転移を示すことによるものであることを解明した。本成果は論文投稿中である。また、類似物質のFeGa2S4について、非偏極中性子散乱実験をチョッパー分光器と後方散乱装置を用いて行い、ベクトルスピンカイラリティ渦の自由運動に起因するエネルギー依存性を観測し、その温度依存性を調べた。さらに、三角格子が二層存在するFe2Ga2S5の非偏極中性子散乱実験を行い、磁気転移温度を境として磁気励起の次元性が変化している興味深い結果を突き止めた。反強磁性スピントロニクスについて、モデル物質を対象とした実験を進めた。まず、中性子粉末回折実験を行い、規約表現論と磁気空間群を駆使し、群論に基づいた磁気構造同定を行った。次に、単結晶試料を用いて非偏極中性子散乱実験を行い、線形スピン波計算による解析からスピン間相互作用の見積もりを行った。さらに、偏極中性子散乱を用いたマグノン極性測定も組み合わせ、面内磁場印加下での動的磁化率測定から絶縁体においてもスピン運動量ロッキングが実現している証拠を得た。今後、定量的な解析を進める。
2: おおむね順調に進展している
当初研究課題に対して、本研究の遂行はおおむね順調に推移している。特に、中性子散乱実験については実験課題申請を前もって行っていたこともあり、順調に進めることができている。今後は、単結晶試料合成とスピン流測定のための試料準備、実際の測定を進めていく。
フェリ磁性スピントロニクスにおけるフォノンの群速度によるスピン流寿命の増大可能性について、マグノン・ポーラロンでスピン流信号が増大する磁場値においてPx中性子偏極を用いたマグノン極性の(Q, E)走査を行った。そのデータ解析として、分解能関数畳み込み後の磁気ピーク幅の逆数からマグノン拡散長・寿命の定量評価を行い、磁場の関数としてマグノン寿命の増大を確認する。反強磁性スピントロニクスについて、スピン運動量ロッキングを示すモデル物質は最近接スピン交換相互作用が小さく、数テスラ以下の磁場で分散関係の制御が可能である。単結晶試料はフローティングゾーン法により合成する。アメリカOak Ridge National Laboratory、JRR-3でのビームタイムを確保しており、弾性散乱、非弾性散乱領域からDzyaloshinskii・守谷相互作用を見積もり、スピン運動量ロッキングのさらなる測定を進める。高次自由度スピントロニクスについて、三角格子反強磁性体NiGa2S4におけるスピンカイラリティによるトポロジカル転移を最近明らかにした(論文投稿中)。これに伴い、非局所スピン流測定をNiGa2S4、およびFeGa2S4を対象に行い、高次自由度によるスピン流伝搬を実証する。研究代表者が研究協力者を務めるJRR-3設置の三軸分光器TOPANを対象に偏極実験のための測定環境整備を行う。まず、単結晶を用いた非偏極中性子散乱実験を可能とし、Pz方向中性子偏極実験の実現をめざす。また、面内偏極実験について、JRR-3には横磁場超伝導マグネット(最大磁場:6テスラ)が整備されている。購入済の試料スティックを実装し、角度回転機構と組み合わせる。横磁場マグネットと独立に回転し、中性子偏極を保ちつつ測定(Q, E)点への到達が可能となる。
すべて 2022 2021 その他
すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (34件) (うち国際学会 15件、 招待講演 5件) 備考 (3件)
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