研究課題/領域番号 |
21H03740
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研究機関 | 分子科学研究所 |
研究代表者 |
平 義隆 分子科学研究所, 極端紫外光研究施設, 准教授 (60635803)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 超短パルスガンマ線 / 逆トムソン散乱 / 逆コンプトン散乱 / 陽電子 / 寿命運動量相関測定法 |
研究実績の概要 |
本研究では、UVSOR-IIIにおいて開発した90度衝突逆トムソン散乱による超短パルスガンマ線を用いてガンマ線誘起寿命運動量相関測定法(Gamma-ray induced age-momentum correlation: GiAMOC)を開発し、研究協力者と共にその有用性を実証することを目的としている。 令和3(2021)年度は、従来法に比べて簡便なGiAMOC計測システムをデジタルオシロスコープを用いて構築することができた。このGiAMOCでは、1組のゲルマニウム検出器とBaF2検出器を使用し、試料から対向放出される2本の消滅ガンマ線のエネルギー広がりと放出時間を同時に測定した。エネルギーは、ゲルマニウム検出器の出力波形の波高値から計算し、放出時間は、超短パルスガンマ線の発生に使用しているレーザーとBaF2検出器の時間差から計算した。試料に入射する超短パルスガンマ線起因の消滅ガンマ線のみをデータ解析に使用するために、レーザーと検出器対のトリプルコインシデンスによってトリガーをかけ、出力波形を全て保存しデータ解析した。 最初に、放射性同位元素を用いてオシロスコープを用いた計測システムのエネルギー分解能を評価した。ガンマ線のエネルギースペクトルの測定には、一般的にマルチチャンネルアナライザー(MCA)が使われるが、本研究では垂直分解能の高い12bitのデジタルオシロスコープを使用している。そのデジタルオシロスコープでもMCAとほぼ同等のエネルギー分解能を得られることを確認した。 放射性同位元素を用いたAMOCでは、密封材でも陽電子が消滅する影響によりエネルギー広がりの時間発展は一定にはならない。それに対してGiAMOCでは、試料由来の消滅ガンマ線のみを測定できるため、エネルギー広がりの時間発展は一定になる。内部に欠陥の無い試料を測定することで予想通りになる事を確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和3(2021)年度の研究実施計画に記載したデジタルオシロスコープを用いたGiAMOC計測システムの構築を達成できたため。
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今後の研究の推進方策 |
令和4(2022)年度は、検出器対を2組に増やしたGiAMOC計測システムの開発を行い、計数率が2倍程度向上することを実証する。 GiAMOCでは、消滅ガンマ線のエネルギー広がりの時間発展を測定できるため、陽電子消滅サイトに関する詳細な情報を得ることが可能である。欠陥の無い試料の場合、陽電子の消滅サイトは1種類であるために消滅ガンマ線のエネルギー広がりは時間が経過しても一定である。一方で、試料内部に転位や空孔などの欠陥が存在すると、陽電子はエネルギー広がりの小さい外殻電子と消滅するため放出される消滅ガンマ線のエネルギー広がりは小さくなる。また、試料内部にポジトロニウムが形成される試料の場合は、消滅寿命やエネルギー広がりが大きく異なるパラポジトロニウムやオルソポジトロニウムの影響により、消滅ガンマ線のエネルギー広がりの時間発展はより複雑になる。令和4(2022)年度は、内部に欠陥が形成された試料や、イオン性結晶、シンチレータ材料などのGiAMOC測定を研究協力者と共に実施し、それぞれの材料での陽電子の消滅過程を明らかにする。
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