昨年度開発した解析方法を以前に銅で測定した非線形な共鳴非弾性X線散乱のスペクトルに適用して、蛍光X線スペクトルを2次元化できることを示した。この結果は、Nature Communications誌で論文発表した。実験面では、2021年度と2022年度での実験でのいくつかの失敗、例えば、発光分光器の調整方法、送液ユニットの安定的な使い方、飛沫防止スクリーンの送り速度、測定範囲とステップ、について、改善・対策を施した。また、今年度のビームタイム中はX線自由電子レーザー施設SACLAのビームは非常に安定していた。これらによって、塩化マンガン(II)水溶液についてKβ線のほぼ全領域とKα1とKα2を含む全領域の2次元面上で非線形な共鳴非弾性X線散乱の信号を十分な精度で測定できた。測定データを解析して求めた散乱断面積、すなわち2次元スペクトルは基本的に前年度までの測定結果と矛盾しないものであった。この2次元スペクトルを解析した結果、5つの成分に分離できることが判明した。一方で、Kβ線の理論計算からは、少なくとも6つの成分が分離できると期待されていた。この違いは、2つある多重項の片方が観測されていないためのように見える。この原因として2つの可能性を考えている。まず、非線形な共鳴非弾性X線散乱では本質的に見えないものである可能性。そして、見えていない多重項が関与する中間状態の寿命が非常に短く、明確なスペクトル構造を示さない可能性である。この点について明らかにするために、Mn(II)に対して理論計算によるシミュレーションを進めているところである。
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