研究課題/領域番号 |
21H03768
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
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研究分担者 |
ソン ヨンア 法政大学, デザイン工学部, 准教授 (20831423)
城 一裕 九州大学, 芸術工学研究院, 准教授 (80558122)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | speculative ethics / more-than-human / ACI / 発酵 / 微生物 |
研究実績の概要 |
本課題では微生物を中心に、モアザンヒューマン(人以上)生命種と人の関係性を支援する技術のデザインを、「相互ケア」の概念を通して研究することを目的としている。そのために、研究代表者らが構築してきた糠床ロボット「Nukabot」を起点とし、展示や実験を通して調査を進めている。2021年度においては、2020年10月から開始したNukabotシステムの21_21 DESIGN SIGHTにおける「トランスレーションズ―わかりあえなさをわかりあおう」展での展示を通して、来場者たちからのフィードバックや音声入力データを採集し続けながら、パブリックスペースでの展示の場合と、生活環境での実験の場合のそれぞれにおける音声入力の傾向の違いを探ることができた。それと同時に、日本科学未来館において翌年度に開始予定である常設ビジョナリー展示「セカイは微生物に満ちている」(ディレクター:伊藤光平)への参加依頼を頂いたことを契機に、次世代(バージョン4)Nukabotのデザインを開始した。これまで開発してきた3つのバージョンの反省点を考慮し、糠床の衛生管理面、およびインタラクション体験の向上を目指した。この機会獲得により、微生物学分野の研究との交流が生まれ、HCI以外の観点から人と発酵微生物の相互ケア的な関係性を調査する研究プロジェクトが立ち上がった。このために、BIOTA社の協力を得て、糠床の撹拌を通して人の皮膚と糠床の間で微生物の移動が起きるかを検証する実験を準備、実施し、データを採集した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
21_21 DESIGN SIGHTの展示においては、16,497件以上の有効な音声認識および音声入力データを集めることができ、この解析を進めることで、発話内容の観点からインタラクションを調べられるようになった。そこからまた、日本科学未来館での長期展示計画が決定したことから、研究計画の立案当初に予定していた数十台のNukabotを製造するプランから、これまでの実験を通して集積した反省点を活かした新しいバージョンの研究開発に取り組めたことは、本課題にとって望外の幸運であった。糠床という、長い伝統のなかで発展し、完成された道具に対して、情報技術を付加することはどうしてもユーティリティとしての違和感を生じさせる側面がある。今回の新しいバージョンを検討する機会が生じたことで、従来の木桶型のものより衛生的に管理しやすく、実生活上でも扱いやすい小ぶりのサイズに設計しなおした、陶磁器製のバージョンのデザインを完成させることができた。その結果、音声認識入力やクラウドとの接続などの電子機器モジュールが日々の糠床のケアと干渉する度合いを低めることができ、より質の高い実験を遂行する可能性を高められた。この過程について、日本デザイン学会(JSSD)春季研究発表の招待講演で発表を行った。また、同展示ディレクターを務め、Nukabotの展示を推進していただいた微生物学者の伊藤光平氏とディスカッションを繰り返すことができた。その結果、微生物学分野において糠床と人の(生物学的な)インタラクションに関する研究がまだ成されていないことが判明した。モアザンヒューマンと人の関係性を扱うHCI研究において、情報技術やプロダクトのレイヤーのみならず、身体という生物学的なレイヤーにおけるインタラクションを同時に議論する可能性が浮上し、糠床を撹拌する人と糠床内の微生物相解析の結果を比較する研究調査を開始することができた。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度においては、上記で述べた①21_21 DESIGN SIGHTでの展示データの採取と分析、②日本科学未来館での展示と、それに付随する実験計画の準備、および③糠床と人の微生物相解析の実験の準備を終えることができた。次年度においては①と③をもとに論文投稿に向けた執筆を行い、②を通した新たなNukabotの実験計画を推進していく。
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備考 |
Nukabotの一般公開実験を行う企画展示のURLを付記する。
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