脳温度が体性感覚に与える影響を検討するため、大脳皮質の局所温度を実験的に操作し、前肢に与えた電気刺激に対して生じた体性感覚誘発電位(Somatosensory evoked potential)を計測する実験を行った。これまでに、27.5℃以下の温度範囲において温度低下に伴い体性感覚誘発電位が小さく(正の相関関係)、27.5℃以上の温度範囲において温度低下に伴い体性感覚誘発電位が大きくなり(負の相関関係)、全体として逆U字型の関係性があることを明らかにした。また、GABA(A)受容体のアンタゴニストを投与すると、27.5℃以下の温度範囲においては正の相関関係が維持されるが、27.5℃以上の温度範囲における負の相関関係がなくなることを明らかにしてきた。これらのことから、脳温度と体性感覚誘発電位の負の相関関係に、抑制性入力が貢献していることが示唆された。一方、興奮性入力が体性感覚誘発電位の脳温度依存性に関与するかに関しては、未知の問題であった。本年度は、グルタミン酸受容体のアンタゴニストを投与し、興奮性入力が脳温度と体性感覚誘発電位の負の相関関係に寄与しているかの検討を行った。グルタミン酸受容体のアンタゴニストとして、AMPA受容体アンタゴニストのNBQXと、NMDA受容体アンタゴニストの(R)-CPPを用いた。その結果、NBQXおよび(R)-CPPのどちらのグルタミン酸受容体アンタゴニストの投与によっても、27.5℃以上の温度範囲において、脳温度と体性感覚誘発電位の負の相関関係が観察され、逆U字型の関係性が維持されることが明らかになった。これらの結果から、脳温度と体性感覚誘発電位の負の相関関係の形成には、興奮性入力よりもむしろ抑制性入力が主要要因として貢献していることが示された。
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