研究課題/領域番号 |
21H03795
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
高山 和雄 京都大学, iPS細胞研究所, 講師 (10759509)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 基底細胞 / 気道 / オルガノイド / 臓器チップ / SARS-CoV-2 |
研究実績の概要 |
生体を模倣できるヒト気道モデルを開発するために、オルガノイド技術と臓器チップ技術を用いた。基底細胞をマトリゲルに包埋し、FGF2、R-Spondin 1、Noggin等を含む培地で培養することによって、線毛細胞とゴブレット細胞、クラブ細胞、基底細胞からなる気道オルガノイドを作製した。気道オルガノイドを分散させたのち、マイクロ流路デバイスに搭載した。マイクロ流路デバイスは、2本のマイクロ流路がPET膜によって分離されているものを使用した。上部マイクロ流路に気道オルガノイドを播種し、空気を流すことによって、気道の内腔の環境を再現した。下部マイクロ流路には肺微小血管内皮細胞を播種し、培地および血液細胞を流すことによって、血管を再現した。 次に、開発したヒト気道モデルを用いて、COVID-19のモデリングを行った。SARS-CoV-2を気道上皮細胞に感染させた。SARS-CoV-2 Spike蛋白質陽性となる細胞が多数確認された。感染した細胞の種類を特定するために、線毛細胞、ゴブレット細胞、クラブ細胞、基底細胞のマーカーとの共染色を行ったところ、ウイルスは線毛細胞に感染しやすいことを見出した。また、感染後、上清中に持続的にウイルスが産生されることも確認している。さらに、肺微小血管内皮細胞にSARS-CoV-2は感染しないものの、血管を模した下部マイクロ流路内にウイルスが放出されることを確認した。 最後に、SARS-CoV-2に暴露したヒト気道モデルにおける基底細胞の挙動を解析した。ウイルス感染後において、線毛細胞はウイルス感染により死滅する一方で、KRT5陽性の基底細胞が生存していることを確認した。残存した基底細胞は線毛細胞を含む気道上皮細胞に分化可能であった。したがって、ウイルス排除後の組織修復が基底細胞の増殖と分化が中心となって行われていると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
生体を模倣できるヒト気道モデルについては、気道オルガノイドと気道チップの開発に成功している。また、気道組織を再現したような三次元構造体を構築できている。さらに、この三次元構造体は気道にある複数の細胞種から構成されている。したがって、現在までに機能的なヒト気道モデルを作製できており、おおむね計画通りに研究が進んでいる。 上記ヒト気道モデルを用いたSARS-CoV-2感染実験については、感染効率のよい系を構築できている。感染細胞を特定できており、ウイルスは線毛細胞には効率よく感染する一方で、基底細胞にはほとんど感染しないことを見出している。また、ウイルス感染により気道上皮細胞層が破壊され、血管内にウイルスが漏出する様子も再現できている。以上のことから、感染モデル構築についてもおおむね順調に研究が進展していると考えられる。 基底細胞の機能解析については、ウイルス感染後に生存している基底細胞が気道上皮細胞層を再生できることを見出した。基底細胞はウイルス感染時に障害を受けた気道組織の再生の起点になりうることが示唆された。これらの結果から、基底細胞の機能解析についてもおおむね順調に進んでいると言える。
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今後の研究の推進方策 |
生体を模倣できるヒト気道モデルについては、今後より多くの個人の細胞を用いて作製することによって、個人差を再現したヒト気道モデルを開発できる可能性がある。ドナー間の差なく、ヒト気道モデルが作製できることを今後実証していきたい。 ヒト気道モデルを用いたSARS-CoV-2については、今後より多くのバリアントを用いた解析を行う。SARS-CoV-2はバリアントごとに機能が異なることが示唆されているため、今回観察した現象がどのバリアントでも確認できるか検討する。特に、気道上皮細胞における感染効率と気道上皮―血管内皮バリア破綻に関して、バリアント間の差が認められるか検討する。 基底細胞の機能解析については、今後基底細胞の複製と分化に関わる因子の同定を行う。ウイルス感染時の基底細胞を起点とした気道上皮細胞層の再生をその因子で制御できるか明らかにする。そのような因子が同定できれば、ウイルス感染時の損傷した気道組織の治療を効率的に実施できるようになる可能性がある。
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