研究課題
生体を忠実に模倣できるヒト気道モデルを開発するために、オルガノイド技術と臓器チップ技術を用いた。基底細胞から気道オルガノイドを分化誘導した。気道オルガノイドを消化酵素によって分散させたのち、マイクロ流路デバイスに播種した。マイクロ流路デバイスはPDMSを素材とし、2本のマイクロ流路がPET膜によって分離されているものを使用した。上部マイクロ流路に気道オルガノイドを播種し、空気を流すことによって、気道の内腔の環境を再現した。下部マイクロ流路には肺微小血管内皮細胞を播種し、培地および血液細胞を流すことによって、血管を再現した。上記の通り、開発したヒト気道モデルを用いて、SARS-CoV-2を用いた感染実験を行った。ウイルスの感染成立を確認するために、SARS-CoV-2 の構造蛋白質の染色を行った。また、感染レベルを評価するためにウイルスゲノム定量およびTCID50アッセイを行った。さらに、血管チャネル内に放出されるウイルス量も経時的に測定した。その際に肺微小血管内皮細胞に障害が生じることを確認した。SARS-CoV-2に感染したヒト気道モデルにおける基底細胞の挙動を解析した。感染後も残存する基底細胞の分化能について評価し、基底細胞は線毛細胞を含むその他の気道上皮細胞に分化する能力を保持していることを確認した。さらに、基底細胞の増殖と分化が活性化する期間で産生量が増えるサイトカインを探索した。基底細胞の増殖と分化を制御しうるサイトカインXの機能解明を行うために、サイトカインXの組換え蛋白質を基底細胞に作用した。以上により、基底細胞の増殖と分化におけるサイトカインXの機能を解析した。
2: おおむね順調に進展している
生体を模倣できるヒト気道モデルについては、オルガノイド技術と臓器チップ技術を用いて成功している。また、気道チャネルには空気を流すことができ、血管チャネルには血液細胞を流すことが出来ることを確認している。したがって、現在までに機能的なヒト気道モデルを作製できており、おおむね計画通りに研究が進んでいる。上記のヒト気道モデルを用いたSARS-CoV-2感染実験も完了している。ウイルスは線毛細胞には効率よく感染する一方で、基底細胞にはほとんど感染しないことを見出している。また、ウイルス感染により気道上皮細胞層が破壊され、血管内にウイルスが漏出する様子も確認した。その際に、血管内皮細胞における遺伝子発現解析を行い、各種ジャンクション関連遺伝子の発現低下を確認した。以上のことから、感染モデル構築についてもおおむね順調に研究が進展していると考えられる。基底細胞の機能解析については、ウイルス感染後に生存している基底細胞が気道上皮細胞層を再生できることを明らかにした。残存している基底細胞は線毛細胞を含む各種気道上皮細胞に分化することを確認した。また、基底細胞から他細胞への分化を制御できるサイトカインの特定にも成功した。これらの結果から、基底細胞の機能解析についてもおおむね順調に進んでいると言える。
ヒト気道モデルについては、今後より多くの個人の細胞を用いて作製することによって、個人差を再現したヒト気道モデルを開発できる可能性がある。例えば、高齢な方の細胞を使用することにより、高齢者の気道を再現できる気道チップを開発できると考えられる。ヒト気道モデルを用いたウイルス感染実験については、SARS-CoV-2以外のウイルスについても検討を行う必要がある。SARS-CoV-2以外のウイルスについても、気道の上皮―内皮バリアを同様に破壊するのか明らかにしたい。基底細胞の機能解析については、基底細胞の複製と分化を制御する因子を活用した損傷気道の再生法の開発を行う。当該因子を作用することにより、損傷した気道を再生できるか検討する。また、基底細胞と他の気道上皮細胞および肺胞上皮細胞との相互作用についても明らかにする。
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