研究実績の概要 |
増殖が可能な細胞には張力ホメオスタシスと呼ばれる、細胞内部の物理的な張力を一定に維持する性質が備わっている。一部の細胞内シグナル分子の活性化はこの物理的張力の下流において調節されていることから、このホメオスタシスは細胞が周囲環境の変化に対して適応的に振る舞うための基盤となっている。また、本ホメオスタシスの不全は動脈硬化症を含め様々な疾患との関連をもつことが指摘されている。これらの背景のもと、本年度はこれまでに開発した改良FRAP法(Continuum mechanics-based fluorescence recovery after photobleaching, CM-FRAP法)を含め、その詳しい実験方法を記したプロトコル論文や総説論文、さらにはmacromolecular crowding(細胞内分子の混雑状況が拡散等に及ぼす影響)に関する実験論文などの執筆を行なった。さらに、本方法を空間統計学と組み合わせる新規方法についてさらなる実験的検証を進めた。これにより、細胞内の限られた部分におけるFRAP計測データに基づいて、細胞内の任意の位置、例えば、核や小胞体の位置における測定(分子拡散係数やターンオーバー速度など)を推定できるようになった。さらにFRAP測定における移流の影響を、これまでのように数値計算に基づくだけでなく、解析的計算のみによってその個別の定量性を説明できる理論的枠組みを構築した。さらに細胞内の張力ホメオスタシスの特徴を非平衡物理学の観点(パーコレーション・シミュレーション)から記述し、論文投稿を行なった。以上より、当初の予定以上の技術開発・理論構築のもと十分な研究・論文成果をもって本研究の最終年度を締めくくることができた。
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