研究課題/領域番号 |
21H03802
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
津田 真寿美 北海道大学, 医学研究院, 准教授 (30431307)
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研究分担者 |
野々山 貴行 北海道大学, 先端生命科学研究院, 准教授 (50709251)
田中 伸哉 北海道大学, 医学研究院, 教授 (70261287)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | がん幹細胞 / ハイドロゲル / ポーラスゲル / がん幹細胞ニッシェ / がん治療法 |
研究実績の概要 |
がんの再発は、がん治療に耐性を示すがん幹細胞が生き残ることによって起きる。がんの根絶には、がん組織におけるがん幹細胞の誕生・生存機構の解明が必須であるが、がん幹細胞が微量なことに加えて、従来のポリスチレンdish上でのがん細胞単独培養法は生体内のがん組織環境と大きく乖離しており、真の解明に至っていない。研究代表者らは、近年、高強度ダブルネットワークゲル(DNゲル)上にがん細胞を播種すると、24時間以内に迅速にがん幹細胞が誘導されるリプログラミング(初期化)現象を見出した(Nat. Biomed. Eng., 2021)。当該技術を基盤として、本研究ではがん組織におけるがん幹細胞の誕生・生存機序の解明を目指す。 令和3年度は、高頻度に再発を引き起こす肉腫の生体内環境を模倣するために、高強度DNゲルの作製技術と多孔質ゲルを得る凍結重合法を組み合わせて、高強度多孔質(ポーラス)ゲルを作製した。ポーラスゲルは、1st モノマーにアニオン性高分子NaAMPSを用い、2ndモノマーに中性高分子AAmを用いた。筋組織を模倣するため、細胞外基質としてフィブロネクチンを吸着後、GFPラベル筋芽細胞を播種し、細胞の接着や長期生存を検討した。AAmの濃度を変えることでポーラスサイズを調整し、さらに細胞の播種方法を改善することにより、ポーラスゲルの深部まで細胞が進展するよう3次元組織モデルを最適化した。このポーラスゲルをマウスの筋肉内に埋植すると、1週間以内に宿主細胞がゲル内に侵入して組織を復元した。一方、氷の成長方向を制御するフリーズキャスティング法を用いた凍結重合法により、筋組織を模倣した高度な配向構造を有するポーラスゲルの創製に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和3年度は、生体内がん組織を忠実に再現するため、組織の硬さ(弾性率)を有しつつ柔軟性に富み、且つ臓器特有の配向構造を有する合成高分子ポーラスゲルの創出に成功した。さらに、組織特有の細胞外基質を吸着させて、がん細胞との親和性が高い3次元組織モデルを構築した。この高強度ポーラスゲルによる3次元がん組織モデルの創出は、本研究の目的実現のために必須のものであり、当該年度の目的を達した。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度に構築した3次元がん組織モデルを用いて、今後は、がん組織を構成する多種細胞間でネットワークを形成させ、がんの進展に伴う時空間的相互作用の動態を解析する。 令和4年度は、①遺伝子導入により異なる波長の蛍光蛋白質で標識したがん細胞、血管内皮細胞、線維芽細胞、および免疫細胞を3次元がん組織モデルで共培養し、蛍光多重バイオイメージングを用いて、がんの進展に伴って変化する異種細胞間相互作用の動態を時空間的に解明する。②異種細胞間や細胞基質間の相互作用により発生するmechanical forceに応答するメカノセンサーを同定するため、幹細胞性、低酸素、治療抵抗性との関連性が報告されているカルシウムチャネルPiezo、TRP、SOC、VOC、LGCについて、shRNAノックダウン手法とFluo4(励起495 nm, 蛍光518 nm)Ca2+プローブを用いたカルシウムイメージングにより解明する。③がん組織内における各細胞内の活性化シグナルを解析するには、共培養後に蛍光ラベルを目印にFACSで各細胞をsorting(分取)後に、マイクロアレイ解析で網羅的に解析し、Real-time PCRやWestern blottingによって定量的解析を行う。④がん組織内に分泌された蛋白質については、共培養後のポーラスゲルから細胞を除去後にゲルから蛋白質を抽出し、TOF-MSによって同定する。蛋白質がどの細胞から分泌されたかを調べるために、各細胞において目的蛋白質をノックダウン後に再度共培養して同定する。 これらの知見を統合し、最終的にはがん幹細胞を根絶し得る治療標的分子を同定し、がん制圧に向けた基盤の構築を目指す。
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