研究課題/領域番号 |
21H03804
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研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
長山 和亮 茨城大学, 理工学研究科(工学野), 教授 (10359763)
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研究分担者 |
上杉 薫 茨城大学, 理工学研究科(工学野), 助教 (20737027)
山城 義人 筑波大学, 生存ダイナミクス研究センター, 准教授 (70751923)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 細胞バイオメカニクス / メカノバイオロジー / 細胞核 / 細胞骨格 / DNA |
研究実績の概要 |
血管の恒常性の維持と破綻のメカニズムを明らかにすべく,独自の細胞マニピュレーション実験系を構築しながら,血管平滑筋細胞における「細胞骨格と核の力学的な繋がり」のメカニズムとその生理学的な意義を明らかにしていくことを目的としている.初年度は,高性能のCMOSデジタルカメラおよび制御装置を新たに導入し,血管平滑筋細胞を培養しながら顕微鏡下でストレッチ刺激を負荷するシステムを構築した.実際の血管内の細胞形態情報と照合しながら,伸展刺激条件を最適化することで,繰返伸展刺激下での細胞内ストレスファイバーの動的挙動と,細胞核の3次元的な変形を詳細に捉えることができるようになった.特に,細胞に繰返伸展刺激を負荷して30分から数時間で,核膜への圧縮力が低減し核内DNA分布の不均質化が促進されるという興味深い知見が得られてきている.また,細胞の伸展率が15%を越えると,比較的短時間で細胞核表面に凹凸が生じ,YAP等の転写関連因子の核内移行が促進される可能性が示唆された.さらに,血管内の生理的張力を考慮して細胞骨格の張力を操作しながら,核の変形挙動を詳細に解析したところ,核への力の伝達効率が細胞骨格の張力依存的に変化することが明らかとなった.これらと並行して,血管平滑筋細胞の脱分化に伴う機械的特性および運動能力の変化を詳しく調べたところ,細胞の脱分化に伴い,細胞骨格の配向性が乱れて張力は低下するが,核に力がより伝わり易くなる特性になることが分かってきた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の予定どおり.実際の血管壁内環境を考慮しながら細胞に繰返伸展刺激を負荷し,そのときの細胞骨格および細胞核の変形挙動を詳細に観察できるシステムを構築した.このシムテムを活用することで,これまで全く未知であった動的力学環境での細胞内の核の変形挙動を定量的に解析できるようになった.そして,比較的短時間の伸展刺激によって細胞核表面に凹凸が生じ,YAP等の転写関連因子の核内移行などが促進される可能性が見出された.また,血管内トーヌスを考慮して細胞骨格の張力を操作しながら,核の変形挙動を詳細に解析したところ,核への力の伝達効率が細胞骨格の張力依存的に変化すること,血管平滑筋細胞の脱分化に伴い,細胞骨格の配向性が乱れて張力は低下するが,核に力がより伝わり易くなる特性になることが明らかとなった.このように当初の予想を上回る興味深い知見が複数得られた.
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今後の研究の推進方策 |
平滑筋アクトミオシン調節タンパク質であるカルデスモンや合成型細胞特有の胎児型平滑筋ミオシン重鎖SMembなどの発現に注目して,細胞骨格ー核膜ークロマチン間の力学的相互作用と細胞の機能調整との関わりを探る. また,高血圧による平滑筋細胞の脱分化を阻止する手法を考案するという観点から以下の実験も進めていく.すなわち,ストレッチ刺激を操作して細胞組織全体に過剰な変形を加える,あるいは,レーザ照射系で特定領域のみの細胞内の細胞骨格と核の結合を乱すなどして,増殖性が高い合成型細胞への脱分化を誘導してみる.このとき,細胞骨格の張力を生化学的に調整しながら,細胞骨格と核とクロマチン間の力の伝達効率を変化させ,核に作用する力を調整してクロマチン凝集を操作し,合成型への脱分化を阻止するなどといった平滑筋細胞のフェノタイプの操作が可能かどうか考察していく.
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