研究課題/領域番号 |
21H03825
|
研究機関 | 北九州市立大学 |
研究代表者 |
望月 慎一 北九州市立大学, 国際環境工学部, 准教授 (10520702)
|
研究分担者 |
高原 茉莉 北九州工業高等専門学校, 生産デザイン工学科, 助教 (40804563)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 薬物送達システム / がんワクチン / ヒアルロン酸 / 抗原ペプチド |
研究実績の概要 |
がんワクチンは生体が自ら持つ免疫機能を活性化してがん細胞を攻撃する治療法であるが、使用されている抗原が自身由来ということもあり、その抗原性は決して高いわけではない。本研究では、がん細胞に特異的に認識される多糖を利用し、がん細胞の抗原性改変に基づく有効ながんワクチンの開発を試みる。 がん細胞への送達分子としてヒアルロン酸(HA)を選択し、HAと抗原タンパク質のオボアルブミン(OVA)との間の縮合反応によりHA-OVAコンジュゲート体を作製した。作製されたコンジュゲート体を多角度光散乱測定器を備えたゲルろ過クロマトグラフィーで解析したところ、コンジュゲート体はHAとOVAが複数個架橋し、HA1分子と比較して分子量は増加するものの、大きさはほとんど変化ないことが分かった。これは、OVAを架橋点としてHAが折りたたまれ、非常に高密度のHAが作製されたと考えることができる。 形態が異なるHAとなることで受容体CD44に対する親和性がどのように変化するのか、水晶発振子の振動数変化より評価した。興味深いことにHAよりもコンジュゲート体の方がCD44に強く認識されることが分かった。さらに、OVAに蛍光分子(FITC)を化学修飾し、マウス大腸がん細胞への取り込み量を評価した。OVAはほとんど細胞に取り込まれないのに対し、HA-OVAコンジュゲート体は非常に良く細胞に認識・取り込まれる様子を観察することが出来た。 取り込まれたOVAはその後、断片化されたペプチドが細胞表面上に提示されると考えられるため、OVA免疫した得られたT細胞と混合培養することで免疫応答が誘導されるか評価する。こうした免疫応答を評価することで、本研究の基本概念となる外来抗原を人為的に送達させることで細胞の抗原性が変化することを証明する。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高分子HA(Mw = 1.0×10^6)を超音波処理により1.0×10^5のHAを得ることが出来た。このHAに対しOVAの仕込みを変化させて縮合反応を行ったところ、HA1分子とOVA1分子から成るコンジュゲート体(HA1-OVA1)と、HA4分子とOVA3分子から成るコンジュゲート体(4HA-3OVA)を作製した。得られたコンジュゲート体を多角度光散乱により解析したところ、両コンジュゲート体ともHAと同程度の大きさであった(慣性半径で約30 nm)。OVAの大きさは数nmより、とりわけ4HA-3OVAはOVAを架橋点としてHAが複数分子折りたたまれ、結果、HA1分子と同程度の大きさになったと考えられる。これは、溶液中でランダムコイルのコンフォメーションを形成するHAであるが、非常に高密度な(固い)HAが作製できたとみなすことも出来る。 作製した各種コンジュゲート体を水晶発振子(QCM)の振動数変化より評価した。QCMのセンサーセルにヒトリコンビナントCD44を固定化し、そこにHA(あるいはコンジュゲート体)を添加し、振動数変化を観察したところ、HAよりもコンジュゲート体を添加した時の方が振動数変化が大きい、つまりCD44に多く結合していることが分かった。とりわけ4HA-3OVAコンジュゲート体の振動数変化は大きかった。さらにOVAを蛍光修飾し、がん細胞への取り込み量をフローサイトメトリーで解析した。OVAのみでは細胞の蛍光はほとんど増加しなかったが、コンジュゲート体、とりわけ4HA-3OVA処理した細胞からは強い蛍光が観察された。QCMの振動数変化の結果も併せ、高密度に折りたたまれた固いHAはCD44によく認識され、細胞に取り込まれやすいことが強く示唆された。これはHAの分子生物学的な役割の解明にも繋がる知見の1つでもあるのではと考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
作製したHA-OVAコンジュゲート体がCD44に高い親和性を示し、がん細胞に取り込まれることが分かった。今後はCD44を介してOVAが取り込まれているのか、取り込まれた抗原が抗原提示されているかどうかを検証する。 細胞への取り込みがHA依存的に行われているか検証するためにコンジュゲート体添加時に過剰のHAを添加し、OVAの取り込み量が変化するかフローサイトメトリーにより定量する。また、現在使用しているCT26細胞は過剰にHA受容体のCD44を発現しているが、得られたコンジュゲート体がCD44を介して取り込まれるかどうか、CD44ノックアウト細胞を作製し、取り込み量の変化からそのメカニズムを明らかにする。 がん細胞に対してOVA抗原が細胞表面上に提示されるかどうか検証するために、まずOVA特異的T細胞を準備する。マウスにOVAとアジュバントを混合し免疫、2回免疫後に脾細胞を回収する(脾細胞中にはOVA特異的T細胞が存在している)。脾細胞とコンジュゲート体処理したがん細胞を混合し、24時間培養する。OVA特異的T細胞ががん細胞上のOVA断片を認識すると、インターフェロンγを産生する。この上清中のインターフェロンγ産生量を定量することで、OVA抗原の提示を評価する。
|