近年、がんワクチン療法では、免疫抑制を解除するチェックポイント阻害剤が実用化され新しい治療ステージに入りつつあるが、それでも奏効率は3割程度とされる。ブレーキ解除後の細胞傷害性T細胞の感受性を向上させるための新たな原理に基づく有効な戦略が求められている。本研究の目的は「がん組織特異的に抗原性の高いペプチドを細胞表面上に提示させる」ことにある。 ヒアルロン酸(HA)と抗原のオボアルブミンペプチドから成るコンジュゲート体(HA-pep)をがん細胞へ添加し、取り込ませたペプチドが細胞表面上に提示されるか検討した。マウス肺がん細胞(LLC)にHA-pepを添加し、24時間後にMHCクラスⅠ分子に提示されたOVAペプチドを抗マウスOVAペプチド結合H-2Kb抗体で染色し、蛍光顕微鏡観察およびフローサイトメトリー解析を行った。HA-pep処理した細胞からは強い蛍光が観察された。これより、HA-pepは細胞に取り込まれた後ペプチドが遊離し、MHCクラスI分子上に提示されたことが証明された。また、その提示量はOVAペプチド処理と比較しても非常に強いものであった。OVAペプチドは細胞表面上のMHCクラスI分子に直接結合していると考えられるため、抗原提示を誘導させるためには抗原ペプチドを適切に細胞内へ送達させる必要があることも分かった。 HA-pep処理したLLC細胞とOVAとCpGで免疫したマウス脾細胞(OVA特異的CTL含む)を混合させ、24時間後に上清中のインターフェロンガンマ(IFN-g)濃度をELISAで定量した。未処理のLLC細胞と脾細胞を混合させてもIFN-gは検出されなかったが、HA-pep処理したLLCと脾細胞では高濃度でIFN-gが検出された。このことよりHA-pep処理したがん細胞は確かにOVA特異的CTLにより認識されていることが分かった。
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