慢性血液透析患者群の3割強が治療中に心機能障害(低血圧・不整脈・心停止・心不全)を経験しており、治療中の心負荷を軽減する『心機能にやさしい透析治療システム』の開発が全世界で求められている。我々は、電気生理学に基づく心筋細胞拍動能の数理解析を実践し、透析治療中の血漿カリウム濃度の変化が心筋細胞拍動能に及ぼす影響を精査した。 まず、治療前の血漿カリウム濃度が高値(5.2mEq/L)、平均値(4.8mEq/L)、低値(4.2mEq/L)の3症例を対象に、カリウム濃度2.0mEq/Lの透析液を用いた治療を想定し、治療中の心筋細胞拍動能の推移を分析した。治療前の血漿カリウム濃度が低値の症例において、治療の後半に拍動リズムの不安定化と収縮不全が観られた。次に、その症例において、中心洞房結節細胞の各種イオン輸送機構の動態と拍動リズムの関係を評価した。ペースメーカー電流を創出するイオンチャネルのカリウムとナトリウムの輸送能が亢進し、細胞内のナトリウム濃度を過度に高め、拍動間隔の不安定化を誘導した。同様に、心室筋細胞の各種イオン輸送機構の動態と収縮力の関係を評価した。治療中の細胞外カリウム濃度の減少が活動電位のピーク値の低下を招き、カルシウムチャネルの開孔確率を下げ、収縮力の低下を誘導した。横紋筋細胞株を用いた検証実験においても、同様な所見が得られ、透析治療中の心筋細胞拍動能低下の機序が詳らかとなった。最後に、治療前の血漿カリウム濃度が低値の症例に、カリウム濃度2.3mEq/Lの透析液を用いた治療を想定し、治療中の心筋細胞拍動能の推移を分析した。その結果、治療中の拍動リズムの不安定化と収縮不全を回避することができた。以上の研究成果をまとめると、透析治療中の血漿カリウム濃度を穏やかに低下させる治療方策は治療中の心負荷軽減に大きく貢献することが示された。
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