本研究では、中東湾岸地域における科学技術・イノベーションの状況をNISの枠組みを使い、アクターや制度も含めて明らかにすることを試みた。具体的にはまず、1.科学技術・イノベーショの発展やイノベーションシステムに影響を与えるとされる安全保障と国際関係について検討をした。外的脅威と内的脅威のバランスを示す「相対的な脅威」、つまり外的脅威が内的脅威を上回る状態、と科学技術の発展状況を分析した。これまで資源の呪いやレンティア国家論が資源の豊富な湾岸周辺国の科学技術や経済多角化を遅らせている主な理由とされてきたが、本研究の結果はその説明に新たな視点を加えるものとなると考える。次に、2.再生可能エネルギー・クリーンエネルギー分野の展開を対象に、テクノロジカル・イノベーション・システムの枠組みから、持続可能性への移行における政府系企業の役割を検討した。中東湾岸国は再生可能エネルギー・クリーンエネルギー分野の後発国であり、バリューチェーンでは技術導入や配備に位置している。通常、製品や商品のデザインやエンジニアを担う製造チェーンで応用可能な技術や能力の習得が最も蓄積されるとされるが、技術の導入と配備という位置づけでどういった能力の習得が得られるのかに関心を寄せた。いくつかの政府系企業は、プロジェクトベースで様々な国で異なる規模の再生可能エネルギー技術の導入と配備を行ってきた。予備的な所見から、ある政府系企業は国内外の投資家や政府関係者、サプライヤーとのパートナーシップを築きながら顧客中心のカスタマイズされたプロジェクトを通して変革力を培っていることが見えてきた。国営企業が大きな役割を果たす当該地域での政府系企業の能力や変革力を明らかにすることは、政策的な意味合いをもつ。また、技術や人材の輸入をしている当該地域で、技術や人材の輸入ベースでの能力の習得可能性を明らかにすることにも意義があると考える。
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