研究実績の概要 |
我が国の警察組織で実施されているポリグラフ検査では、事件に関連する質問と、それと同質であるが事件に関連しない複数の質問を提示した際の生理反応を比較して、被検査者が事件事実についての記憶を有しているか否かを推定している。一方で、反応時間に基づく隠匿情報検査(RT-CIT)は、標準的な仕様のパソコンが1台あれば計測可能であるという費用面の利点や、記憶の有無が生理反応に反映されない者の取りこぼし防止等、従来のポリグラフ検査を補完する役割を担える潜在性を有しているものの、実用化を見据えるに当たっては克服しなければならない問題点がいくつかある。現在、研究レベルで実施されているRT-CITの多くは、質問項目と同質の一刺激をターゲットに設定し、そのターゲットに対して他の刺激と異なる反応を求める手続きが必要であり、この制約が実務検査場面への適用が困難な要因の1つであるといえる。そこで本研究では、質問項目と同質のターゲットを設定する必要がない新しいRT-CIT課題を考案し、課題成績から隠匿情報の検出が可能か否か検討した。 本研究のRT-CIT課題は視覚的注意研究で広く用いられている「先行手がかり課題」を基に作成した。実験参加者は画面上に提示された数字を記憶し、それを隠匿した状態でRT-CIT課題に参加した。実験参加者には、先行刺激として質問項目を提示した後、後続刺激についてキー押しによる判断を課した。先行刺激と後続刺激の提示時間間隔(SOA: 0, 50, 100, 200, 300, 500 ms)及び提示位置の一致性(一致・不一致・中立)を操作した実験の結果、SOAが300 msの条件において、先行刺激が隠匿情報か否かによって、後続刺激に対する反応時間が異なることが示された。この研究成果は、実務検査場面に対応した行動指標による隠匿情報検出手法の確立に寄与することが期待される。
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