本研究は、世界遺産醍醐寺における京都市立醍醐中学校を対象とした文化財の鑑賞授業と、その充実のための事前事後の学習を開発、導入することにより、グローバルな視野で歴史・文化を理解する姿勢を生徒が養うことを目的とする。 今年度は、美術科通して実践してきた鑑賞授業において、新たに社会科の事前授業を開発・導入した。 具体的には、史資料を収集して教材研究を行い、それを基に3学年分の事前授業を計画した。授業計画と教材のワークシートについては、学芸員・僧侶・教員の相互理解と情報共有を図り、生徒が既習の内容を有効に活用できるものにした。1年生は「始皇狩之図屏風」(江戸時代)の鑑賞と関連付けられるよう、事前事業では、始皇帝に始まる「巡狩」という名目の領地の巡視をテーマにし、社会的背景と関連付ける授業にした。2年生は重要文化財「五大明王像」の鑑賞に向け、インドから東アジアにおける仏像表現の変化について、歴史の変遷と併せて考えるものとした。3年生は、国宝「三宝院殿舎と庭園」の鑑賞を前に、近世初期の醍醐寺の復興を『義演准后日記』を教材として確認し、タブレットで明治時代の境内の地図と比較して、社会的背景の変化について協議をした。 その結果、醍醐寺での鑑賞時には、地域の文化財を通史の中に位置づけ、文化の多様性を踏まえて鑑賞する姿勢が見られた。蓄積した生徒のワークシートを分析したところ、文化継承の意義や、比較文化的な視点も養われ、社会に対する興味関心の向上が示された。さらに学習の自己評価では、80%以上が「よくできた・まあまあ良くできた」と回答し、高い自己肯定感を示した。これにより、本研究はESDを担う博学連携モデルとして社会に貢献でき、生徒の生きる力の向上を図る伝統文化教育としても意義がある。また情操教育としても中学校から高い評価を得ており、現代社会における重要性は高い。
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