本研究の目的は、就学移行を経験した当事者としての子供が、小学生となった今、現在の生活や学習を経る中でどのように就学移行を振り返り、どう意味付け自分の経験としているのかを明らかにするものである。これまで就学移行についての研究は学校システム側からの子供の「適応」「段差」の言説が中心であったが、本研究では経験としての就学に伴う移行を主体としての子供がどのように意味づけているのか、という当事者の語りから就学移行について明らかにするものである。 研究の結果、協力者達は「小学生になること」を○具体的な成長モデル、○具体的な環境の変化、○小学校文化、○幼稚園との比較対象、○ポジティブな感情対象、○ネガティブな感情対象、○強制感・外的プレッシャー、○「大人」概念の下位項目、○変身、○漠然とした自己理解、○全能感、○社会構造の一つ、として捉えていたことが明らかになった。 本研究結果からは、○幼児期の小学校との交流活動回数の多さは就学移行の不安を解消するものではないこと、○大人の不安に起因する就学へのプレッシャーがあること、○研究協力者である子供が幼児期を共にした元担任教諭に就学移行期について語る必要性を感じたことが、より子供自身の歴史を語ることで再構成され、語りそのものを豊かにしたこと、○4年生を対象にしたことで自己の育ちをメタ的に捉えて語っていたこと、○就学によるアイデンティティの不安定さについて他者に語ることは自我を統一する「力」となりうること、なども明らかになった。 今後の課題として、本研究では就学移行を経験として振り返ることで意味づける語りであったが、渦中にある5歳児・1年生の子供は「小学生」「小学校」という学校システムをどのように理解していくのか、その過程を当事者である子供の語りから明らかにしたい。
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