研究実績の概要 |
イヌの皮膚疾患で最も多いイヌアトピー性皮膚炎は、再発を繰り返し、慢性化することで問題となっている。バクテリオファージがコードする酵素「エンドライシン」は、細菌細胞壁を分解するため、新しい抗菌剤として注目されている。そのため、イヌアトピー性皮膚炎の原因菌の一つであるブドウ球菌を特異的に除菌できるエンドライシンを利用することにより、本疾患の発症予防や症状の軽減ができると考えた。 申請者は、ブドウ球菌属を特異的に殺菌可能な新規なエンドライシンをすでに発見している。本研究ではアトピー性皮膚炎マウスモデルを利用し、新規エンドライシンのアトピー性皮膚炎発症予防効果の検討を行った。はじめにアトピー性皮膚炎マウスモデルの作出は、NC/Ngaマウスの背部~耳介部に5%2,4-トルエンジイソシアネート(TDI)を塗布し炎症反応を誘発させた。エンドライシン塗布群には、グリセリン(5%)とキサンタンガム(3%)を混和させたエンドライシンを、耳・頚背部全体に毎日塗布した。コントロール群(エンドライシン未塗布)にはグリセリンとキサンタンガムを塗布した。評価には、経時的に皮膚症状重症度スコア、耳・背の皮膚厚、TEWL(経皮水分蒸散量)の測定および耳介リンパ節、皮膚サンプル(耳、背)の剖検をおこなった。その結果、皮膚症状重症度スコア、耳・背の皮膚厚、TEWL値および耳介リンパ節における免疫担当細胞数においてはエンドライシン塗布群とコントロール群に有意差は見られなかった。しかしながら、皮膚上の菌数を測定した結果、エンドライシン塗布群でブドウ球菌数に有意な減少がみられた。残念ながらアトピー性皮膚炎の症状の改善がみられなかったが、これは使用したマウスモデルの作出に問題があった可能性がある。今後は、この問題を解決し、イヌアトピー性皮膚炎だけでなく、ブドウ球菌と直接関連している膿皮症の再発予防に応用していきたい。
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