地表根形成を担う量的形質遺伝子座qSOR1の準同質遺伝子系統(以下、qsor1-NIL)が塩害水田においてササニシキと比較し収量低下が軽減されるデータが得られたことから、地表根形成が塩害水田で生じる土壌の還元ストレスを回避し収量低下を軽減したと考えられたが、そのメカニズムについては詳細な研究がなされていない。本課題では、地表根の形成することで塩害水田において収量低下が軽減されるメカニズムを解明するための予備試験として、塩害水田において土壌深度の異なる塩濃度の推移を塩濃度モニタリングにより経時的に計測し、また、葉身の葉緑素濃度の推移および収穫した玄米の粒幅などの調査を行った。 塩害水田に埋設したセンサーEC値によると、田面水EC値が8月下旬以降低下し、5cm深センサーEC値も9月初旬以降から9月下旬にかけて大きく低下したが、一方、さらに土壌深くに設置した10cm深センサーEC値は9月下旬まで大きく低下することなくEC値を維持していることが判明した。また、生育調査の結果、普通水田では草丈、分げつ数およびSPAD値に、両系統の間に差異は見いだされなかったが、塩害水田ではqsor1-NILの草丈、分げつ数がササニシキに比べ有意に多く、さらに登熟期以降のSPAD値はqsor1-NILで有意に高い値となった。また、玄米粒厚の重量頻度分布を調査した結果、塩害水田ではqsor1-NILの玄米粒厚がササニシキに比べ平均0.07mm以上厚く、玄米の粒厚分布が厚い方にシフトしていた。 これらの結果から、地表根遺伝子の導入により塩害水田で収量低下が軽減される要因の一つとして、根の分布が地表面近くに変化したため、登熟後半に塩害水田の土壌内で起こる塩ストレスから回避したことにより、地上部の生育や稔実への影響が軽減され、収量の維持に寄与したのではないかと推測された。
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