東海地方の山間部では蜂の子と呼ばれるクロスズメバチ及びシダクロスズメバチの幼虫や蛹を飼育して食べる文化がある。蜂の巣を採集する際には、ニワトリやイカの肉を小さな団子状にし、目印を付けたものを蜂に与えて巣に持ち帰らせ、その目印を追いかけて巣を発見する。蜂の飼育時には鶏肉や鹿肉、海水魚等様々な餌が用いられている。蜂の子を食べる人々も、学術研究においても、クロスズメバチ属の蜂は昆虫やカエル、ヘビを捕食すること以外、餌生物の詳細は分かっていない。 本研究では、シダクロスズメバチの幼虫24個体の消化管から未消化物を取り出し、DNAバーコーディング法を用いて餌生物の特定を行った。その結果、165種類の餌生物のDNAを検出した。蜂愛好家が飼育している巣では、愛好家が与えている鹿肉や鶏肉に加え、ハタネズミやカケス、昆虫類を食べていた。また、野生巣では昆虫類に加え、ハシブトカラスやハシボソガラス、ハクビシン、ヒバカリ、キジバトを食べていた。餌生物の構成は飼育巣と野生巣で異なるだけなく、地域によっても異なっていた。 東海地方の山間部では蜂の子と呼ばれるクロスズメバチ属の蜂の幼虫や蛹を食べる文化がある。本種は昆虫やカエル、ヘビを食べることが報告されているが、餌生物の詳細は調べられておらず、蜂の子を食べる人々も詳しくは分かっていなかった。本研究によって、本種は昆虫に加え、ハクビシン、ハタネズミ、カケス、キジバト、ハシブトガラス、ハシボソガラスを食べていることが明らかになり、野生下で哺乳類や鳥類の肉を捕食していることを明らかにした。他方で、本種を飼育する蜂愛好家は自身の経験や他の愛好家との情報交換からニワトリや鹿肉を蜂の餌として与えており、本研究結果は蜂飼育文化の成熟度を裏付ける結果ともなった。
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