海産大型藻類、いわゆる海藻の再生能力については古くから多くの記載がなされている。興味深いことに、海藻は多くが多核細胞からなる。多核細胞は、ヒトでは筋肉や肝臓に見られ、組織再生に貢献していることが知られる。従って、海藻細胞の多核性もまた藻体の再生能力に影響を与えている可能性がある。従って海藻において再生のメカニズムを紐解くことは、植物のみならず多細胞生物における再生現象を理解する上で重要な鍵となりうる。本研究課題においては、海藻再生の分子メカニズムを探るプロジェクトの一環として、①名古屋大学の菅島臨海実験所付近で採取された約66種の海藻の切断応答の記載、②細胞レベルでの観察が容易な4種について再生時の核や色素体動態の観察を行った。 ①では、緑藻・紅藻の多くで、1週間以内に切断応答が顕在化することが分かった。この切断応答は、主に芽体形成・仮根形成・胞子形成に分けられた。成長端切断による芽体形成は、波にちぎられたり海棲動物にかじられた際にさらに成長するために必要と考えられる。仮根形成は、かじり切られても岩や他の海藻などの基質に付着して安定するため、胞子形成は別の環境に移動するためと考えられた。 ②に関しては、海藻体の核や細胞壁を染める蛍光試薬ヘキスト33342による生体染色を行い、共焦点顕微鏡を用いて藻体切断時に生じる再生のタイムラプスイメージングを行った。例えば紅藻ダジアでは、切断面の細胞は死に、その隣接細胞が伸長し、この細胞内の全ての核が同調して分裂し、核分裂と同時に隔壁が生じ、細胞が分裂する様子が観察できた。他の3種の海藻についてもそれぞれ独特の応答様式を持つことが分かったため、それらを記載し、結果を国際雑誌に発表した。 一方、各切断応答時に植物ホルモンを添加したが、有意な影響は見られなかった。 現在、海藻の再生現象をさらに分子生物学的に解析するためのモデル系を開発中である。
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