【目的】含リンアミノ酸系除草剤であるグリホサート(GLYP)は,ホームセンター等で容易に入手可能であることから中毒事案が散見され,犯罪捜査の過程等において,被摂取者の血液からGLYPを迅速に検出することが求められる.しかし,GLYPは高極性化合物であるため,分析機器に導入するまでに煩雑な前処理が必要で,検出までに長時間を要してしまうのが現状である.本研究では,近年メタボロミクス等の分野で着目されている固相誘導体化法(分析目的物質を固相に保持した状態で誘導体化反応を行う方法)という技術を応用し,血液中のGLYPを迅速かつ簡便に検出するための新規分析法を開発することを目的とした. 【実験方法】GLYPを添加したヒト血液を水で希釈した後,遠心分離により得られた上清をアセトニトリル(ACN)と水でコンディショニングした固相抽出カートリッジ(強アニオン交換型)に負荷した.カートリッジを水とACNで順次洗浄後,誘導体化試液(クロロぎ酸9-フルオレニルメチル(FMOC-Cl)ACN溶液と四ホウ酸ナトリウム水溶液の混合液)を通液し,室温で反応させた.カートリッジを水-ACN混合液とACNで順次洗浄した後,メタノールートリフルオロ酢酸混合液で溶出した.溶出液を濃縮し,得られた残渣を水-ACNに溶解した後,遠心式ろ過フィルターでろ過して得られたろ液について液体クロマトグラフィー質量分析(LCMS)を行った. 【結果】固相誘導体化の条件(各試薬の濃度,反応時間等)を最適化したところ,軽症を想定した濃度(1μg/mL)の血液からもGLYP-FMOC誘導体が良好に検出された.本法は,従来法と比較して前処理に要する時間が半分以下であること,他の薬毒物分析で用いられる一般的なLCMS条件(C18カラム+揮発性塩の水溶液+有機溶媒)での分離・検出が可能である等,迅速かつ簡便な分析法であることが示された.
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