せん妄は急激に進行する意識障害であり注意力、思考力の低下、見当識障害、意識レベルの変動を特徴とする。術後のせん妄は周術期に最も問題となる合併症のひとつである。術後せん妄が発生した場合には安静状態が保てなかったり、点滴やカテーテルの自己抜去等の危険行動等の恐れがある。その場合、患者に危険があるのみならず、多くの医療資源の投入を必要とする。せん妄を起こした患者の死亡リスクは約2.5倍上昇するという報告もあることから、せん妄の発生を抑制することは非常に重要である。せん妄の発生リスクを上昇させる要因の一つとしてベンゾジアゼピン系薬の使用が知られており、ベンゾジアゼピン系薬の使用でせん妄の発生リスクが2倍になるとの報告もある。 岐阜大学病院ではベンゾジアゼピン系薬を含むクリニカルパスおよび周術期の医師による指示を見直し、ベンゾジアゼピン系薬を含むものを抽出しオレキシン受容体拮抗薬(レンボレキサント)を含むものへと変更を行った。また、医療安全講習会を活用し周知を行った。 岐阜大学医学部附属病院において2020年度では経口睡眠薬の処方があった患者が3313名であり、そのうちベンゾジアゼピン系薬の処方があった患者は2073名(62.6%)であった。介入後、徐々にベンゾジアゼピン系薬の使用量は減少し、2021年度は睡眠薬の処方があった患者は累計3641名であり、ベンゾジアゼピン系薬を使用した患者数は1429名(39.2%)まで減少した。また、新規導入患者は2021年4月の時点では睡眠薬使用患者508名のうちベンゾジアゼピン系薬を開始していた患者は285名(56.1%)であったのに対し、取り組み後の2022年3月では睡眠薬導入患者285名のうちベンゾジアゼピン系薬を開始した患者は68名(23.7%)と低下を認めた。せん妄の発生状況の変化およびせん妄発生の要因については現在調査継続中である。
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