研究実績の概要 |
違法薬物の新たな形状である大麻濃縮物は、従来の大麻よりもΔ9-テトラヒドロカンナビノール(Δ9-THC)の含有量が多く、さらにΔ8-テトラヒドロカンナビノール(Δ8-THC)の含有も確認されており、大麻事犯は複雑化している。大麻濃縮物中のΔ9-THC、Δ8-THC の含有量は様々で、それらの含有量を明らかにすることは、人体への影響、流通ルート把握のため重要である。通常Δ9-THCの定量は、標準品が入手困難であるため、カンナビノールを用いたGCによる定量が行われている。一方、定量NMR法では、標準品や検量線が不要のため迅速な定量分析が可能である。また、大麻濃縮物中にΔ9-THCの前駆体Δ9-テトラヒドロカンナビノール酸(Δ9-THCA-A)が存在した場合、熱分解によりΔ9-THCが生成されるため、GCでの定量には注意を要するが、NMRでは、熱による影響がないため、9-THCとΔ9-THCA-Aを区別して分析が可能と考えられる。 そこで本研究では定量NMR法を用い、大麻濃縮物中のΔ9-THC、Δ8-THCの定量法について検討した。 Δ9-THC、Δ8-THC、Δ9-THCA-Aの重メタノール溶液のNMRスペクトルは類似の化学シフト値を示したが、重クロロホルム溶液ではベースライン分離したピークを確認でき、定量可能と考えられた。定量NMRの内部標準物質として1,2,4,5-テトラクロロニトロベンゼンを用いて、Δ9-THC、Δ8-THC及びそれら混合物をNMRで定量した結果、GCによる定量値と同様の値が得られた。また国内で押収された大麻濃縮物について本法を適用したころ、重複しない化学シフト値を利用することでNMRとGCで同様の結果が得ることができた。さらにNMRではΔ9-THCとΔ9-THCA-Aを明確に区別でき、Δ9-THCのみの定量が可能であった。本法は、大麻濃縮物中のΔ9-THC、Δ8-THCの迅速な定量に有効と考えられた。
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