【目的】統合失調症の治療では、複数の抗精神病薬の併用による副作用リスクの増大や、薬物間相互作用がしばしば問題となる。海外では向精神薬の薬物治療モニタリング(TDM) ガイドラインが刊行されているが、TDMの有用性が十分に示されていない薬物も多く、検証が必要である。本研究では、本邦におけるTDM の有効性評価を目的に、LC-MS/MSを用いて血中抗精神病薬の一斉分析法を構築し、抗精神病薬服用患者の薬物血中濃度測定を行う。 【方法】東北大学病院で採用されている抗精神病薬16種に4種の活性代謝物を加えた20化合物を対象とした。質量分析計にはAPI5000(SCIEX)、液体クロマトグラフには Nexera (Shimadzu)を用いた。MS/MS条件の最適化、LC条件の検討を行った後、分析法バリデーション試験により手法の信頼性を確認した。最後に本法を統合失調症患者の血漿中濃度測定に適用した。 【結果】LC-MS/MS条件を検討した結果、日内・日間再現性試験では 11化合物が基準を満たし、残りの9化合物のうち7化合物で真度、精度最大30%程度、2化合物で真度、精度最大40%程度であった。化学的に安定に保管できる温度や期間は化合物ごとに異なり、超低温冷凍でも安定に保管できない化合物もあった。患者血漿分析したところ、治療参照域を大きく超える薬物血中濃度も認められ、投与量の厳密なコントロールが必要な症例があることが判った。一斉分析法はさらなる改良が必要であるが、本法の活用により、抗精神病薬の血中濃度と効果や副作用との関連を検証することが可能になり、統合失調症の治療最適化への貢献が期待される。
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