【目的】クロザピンは、血中濃度半減期が比較的短いことから、添付文書上、分割投与での処方が推奨されている。しかし、1日1回投与に対する分割投与の優位性を支持するエビデンスはほとんどなく、1日投与回数の違いによる実際の血中濃度や、副作用の違いを検討した研究もない。そこで、クロザピンの実際の血中濃度を、1日1回投与と分割投与で比較し、精神症状およびクロザピンの自覚的副作用との関係を検討することを目的とした。 【方法】本研究は、抗精神病薬に対する治療抵抗性が確認され、クロザピンを服用している入院または通院中の統合失調症患者108名を対象にした。母集団薬物動態モデルを用いて、実際のクロザピン血中濃度から、ピーク濃度およびトラフ濃度を推定した。精神症状については、精神病の症状ドメイン簡易評価尺度(Brief Evaluation of Psychosis Symptom Domains: BE-PSD)、クロザピンの自覚的副作用については、クロザピン版グラスゴー抗精神病薬副作用評価尺度(Glasgow Antipsychotic Side-effects Scale for Clozapine: GASS-C-J)を用いて評価した。 【結果】クロザピンの推定ピーク濃度および推定トラフ濃度は、1日1回投与と分割投与で有意な差はみられなかった。また、うつ/不安以外の精神症状およびクロザピンの自覚的副作用についても、1日投与回数の違いで有意な差はみられなかった。 【結論】本結果は、臨床におけるクロザピンの1日1回投与の可能性および臨床的有用性を暫定的に支持するものである。本結果を再現し、投与方法と臨床転帰の因果関係を明らかにするために、さらなる研究が必要である。
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