研究課題
心不全患者の約半数は左室駆出率が保たれた心不全(HFpEF)であり、その発症への左室拡張機能障害の関与が指摘されている。左室拡張機能障害に起因する左房圧の上昇はHFpEFの予後不良因子であるが、HFpEF患者ではその評価が困難な場合が多い。本研究では、近年考案された断層心エコー法の視覚的評価に基づいたスコアリングによる左房圧指標(visually assessed time difference between mitral valve and tricuspid valve opening[VMT]スコア)を用いたHFpEFの予後予測成績を検討した。安定した状態で心エコー検査を受けたHFpEF患者310例を対象として、米国心エコー図学会のガイドラインに従い左室拡張機能分類を行った。左房圧上昇に伴う僧帽弁開放時相の早期化から着想し、四腔像の房室弁開放時相差(三尖弁先行:0点、同時:1点、僧帽弁先行:2点)と、下大静脈拡張(1点)を加算してVMTスコア(0~4点)を求めた。検査後2年間の心臓死と心不全再入院を心血管イベントと定義した。結果として、観察期間中に55例(18%)に心血管イベントを認めた。Kaplan-Meier分析ではVMT≧2の群(54例)で有意にイベント発生リスクが高かった(ログランク検定 P<.001)。多変量Cox比例ハザード回帰分析では、VMTスコアは年齢、収縮期血圧、血清アルブミン濃度、左室拡張機能分類と独立して心イベントと関連した(ハザード比:2.23;95%信頼区間:1.17-4.24、P=.014)。さらに、血漿脳性ナトリウム利尿ペプチド濃度と左室拡張機能分類にVMTスコアを加えると、イベント発生予測率は有意に上昇した(P=.035)。これらのことから、VMTスコアはHFpEFの予後予測指標になり得ると考えられた。
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European Heart Journal - Cardiovascular Imaging
巻: - ページ: -
10.1093/ehjci/jeab208