研究実績の概要 |
特発性心室細動などの致死性不整脈による心臓突然死の一部は遺伝性のイオンチャネル変異など原因が明らかとなってきたが,依然としてそれらが特定できない原因不明のものが多く存在する。代表者はその原因の一つに漏斗胸などで見られる“胸郭陥凹による心臓圧迫”があるのではないかと着想した。本研究の学術的「問い」は“胸郭陥凹による心臓圧迫”は,①機械的圧迫・機械的刺激により,心筋に持続的な炎症と線維化が惹起し,突然死を起こす不整脈(致死性不整脈)の原因となっているのではないか?,および②胸郭形成術により機械的刺激・機械的圧迫を解除・改善させることができれば, 致死性不整脈が抑制できるのではないか?である。本研究では, “胸郭陥凹による心臓圧迫”が心筋そのもの,また催不整脈性に及ぼす影響について検討を行うことを目的としている。 代表者は,大分大学ものづくり工房の協力のもと,プラスチックコルセットを用いたオリジナルの胸郭陥凹モデルマウスを作成した。これまでの検討で、特に陥凹した胸骨前面に圧迫されている右室心筋において,組織学的に心筋線維化・炎症性マクロファージ浸潤が確認されている。今後,胸郭陥凹負荷期間に応じた変化を評価し,さらに,胸郭陥凹を解除することで,それらの変化が改善するかについても検討を行っていく予定である。 カテーテルアブレーションを行う臨床家の間では,カテーテル先端から記録される異常電位が心筋線維化を意味し,特に右室流出路に見られる異常電位が致死性不整脈アブレーションの標的になるということが知られ始めている。今回,胸郭陥凹による機械的圧迫・機械的刺激により右室心筋の炎症・線維化が組織学的に証明されたことは,胸郭陥凹が致死性不整脈の原因の一つとなりうることを示す意義のある成果と言える。
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