①研究目的:本邦の重症心不全患者に対し、補助人工心臓(Ventricular assist device:VAD)治療が広く行われてきている。VAD患者が安全にQOL高く在宅療養を送るためには患者自身の全身管理が重要であり、機器取り扱いについての知識・技術を習得することが必須である。本研究はVAD患者の術前後の認知機能を評価し、予後を予測する有効な指標となりうるかを検証することを目的とする。脳血管障害既往、腎機能などのVAD装着前の患者情報を抽出し、認知機能との関連を調査する。また、術後入院中、および退院後の状況を調査し、術前後の認知機能が療養状況・予後へ影響を与えるかを明らかにする。有効な予後予測指標を明らかにし、予後不良群を抽出することで、サポート体制強化などの対策を講じ、VAD患者の更なる予後改善に繋げることが目標である。 ②方法:当院の新規VAD装着患者を対象とし、Trail Making Test Part B(TMT-B)を用いて認知機能評価を実施する。評価は3回(術前、術後2・6週間)行い、背景因子(脳血管障害既往の有無、年齢、腎機能、等)、術後因子(装着術後在院日数、安全な機器取り扱いの可否、等)を調査し、認知機能の関与因子および認知機能が及ぼす影響を検討する。また、術後一年間の再入院回数、および総入院日数、機器トラブル発生回数を調査し、認知機能が術後一年間の治療予後に影響するかを検証する。 ③結果:術後TMT-Bに時間を要する者は術後初回入院の在院日数が長期化し、術前後に腎機能が低く、脳血管障害既往のある者は、術後TMTが延長する可能性が示唆された。VAD装着患者術後遠隔期の認知機能は概ね維持・改善した。術前脳血管障害の既往のある者は、iVAD装着術前、術後周術期に認知機能が低下し、術後遠隔期には腎機能障害の合併が認知能低下の一因となる可能性が示唆された。
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