【研究目的】脳卒中後の歩行障害の改善には,適切な運動パターンでの歩行練習を繰り返すことが重要であり,再現性の高いパターン運動を提供できるロボティクスの臨床応用が注目されている.その一方で,ロボティクスを用いた介入のみでは歩行障害の改善は部分的であるという問題点も指摘されている.この要因として,脳卒中後に生じる痙縮(不随意に筋が収縮する症状)が適切な運動パターンでの歩行を阻害していることが考えられる. そこで,本研究は歩行支援ロボット(WAR)による適切な歩行パターンの誘発に加え,痙縮を抑制可能なボツリヌス療法(BTX)を併用した介入(WAR×BTX)が脳卒中後の歩行障害を改善させるかを検証した. 【研究方法】最初にWARによる歩行障害への影響を検証するため,痙縮の症状が軽く運動麻痺の改善がプラトーに達した回復期後期の脳卒中患者1例(Case 1)に対し,WARを用いた介入を行なった.次に,WARとBTXを併用した介入による影響を検証するため,痙縮の症状が強い慢性期脳卒中患者1例(Case 2)に対し, BTX→WARの順で介入を行なった.効果判定には歩行速度や歩行耐久性を評価し,歩行時の筋活動変化については筋シナジー解析を用いて検証した. 【研究成果】Case 1は,WAR後に歩容の改善を認め,歩行耐久性の向上も示した.歩行中の筋活動パターンの変化もみられ,一部分離運動が行われていることを示す所見が得られた.Case 2については,歩行能力に変化を認めなかったものの,BTX後に痙縮の減弱と筋活動パターンが正常歩行に近づく所見が得られた.一方でWARによる筋活動パターンの変化は認めなかった.以上より,痙縮が軽い症例についてはロボティクスを用いた介入が有効であるが,痙縮が強い症例についてはロボティクスによる介入効果は限定的であり,新たな介入方法の検討が必要であることが示唆された.
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