球技スポーツにおける状況判断場面では、時間的プレッシャーといった負荷がかかる中で、次の動作や戦術を瞬時に実行することが求められるため、判断の遅れや誤りは致命的である。このような競技者の状況判断は、実行機能の中でも、抑制機能が重要な役割を担っている。抑制機能を評価する認知課題として、フランカー課題が挙げられる。フランカー課題では、妨害刺激によってエラー反応が誘発されることにより干渉効果が生じるため、干渉効果を抑制しながら課題を遂行することが求められる。したがって、時間的プレッシャーと抑制機能との関係について明らかにすることができれば、エラー発生メカニズムの解明につながるだろう。そこで本研究では、制限時間の強度がエラー発生に及ぼす影響について検討することを目的とした。 実験参加者は、体育専攻学生24名(男性12名、女性12名)であり、エディンバラ利き手テストによって右利きと判定された者であった。課題には制限時間の強度を操作したフランカー課題を用いた。反応様式には両手をクロスせず反応するNon-Cross条件と両手をクロスして反応するCross条件を設けた。制限時間の強度は250、300、350、400、450 msに設定した。その結果、反応様式の複雑性に関わらず、制限時間が300 ms以下の場合には速度と正確性のトレード・オフが確認されたが、制限時間が350 ms以上の場合にはその現象は確認されなかった。よって、制限時間の強度が高まるにつれ、実験参加者は制限時間内に反応することを優先させるため、エラー発生が増加したものと推察される。今後は他の指標の分析を進め、より包括的にエラー発生メカニズムについて検討し、競技者の認知スキルの評価を目指す。
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