研究課題/領域番号 |
21H04347
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
勝又 直也 京都大学, 人間・環境学研究科, 教授 (10378820)
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研究分担者 |
志田 雅宏 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 講師 (10836266)
大澤 耕史 中京大学, 教養教育研究院, 助教 (40730891)
加藤 哲平 追手門学院大学, 基盤教育機構, 大学常勤講師 (70839985)
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研究期間 (年度) |
2021-04-05 – 2025-03-31
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キーワード | ユダヤ / 聖書 / 語り直し / ユダヤ教 / ヘブライ語 |
研究実績の概要 |
国内の研究チーム(研究代表者、研究分担者、研究協力者)計12名で本研究課題を開始した。コロナ禍のため、zoomを利用したオンライン研究会を計4回開催し、各研究者が専門とする時代、地域、文献ジャンルにおける「聖書の語り直し」の具体的事例について発表報告したうえで、参加者全員で議論した。具体的には、第一回研究会(令和3年6月開催)は加藤が「第二神殿時代文学」、第二回研究会(令和3年9月開催)は大澤が「シリアキリスト教」、第三回研究会(令和3年11月開催)は飯郷が「知識の実」、宇田川が「新大陸における『禁断の果実』」、第四回研究会(令和4年3月開催)は山城が「ヤコブの梯子」、それぞれにおける語り直しについて発表した。一方、海外研究者との共同研究活動は、一向に収束しないコロナ禍のため、令和3年度内は極めて限られたものとなった。 海外研究協力者との研究交流ができなかったため、令和4年度に一部の予算を繰り越した。コロナ禍の収まった令和4年度では、令和3年度からの繰越分をもとに、国際的な研究活動を活発に行った。本科研費でOAとして雇用し、事務面での運営に携わっている博士後期課程学生の菅野を8月にエジプトに派遣し、カイロ旧市街のフスタートにて、ゲニザ文書が発見されたベン・エズラ・シナゴーグやバサーティーン・ユダヤ人墓地を視察した。さらに、エジプトから、中世アラビア語・ヘブライ語の比較文学の研究者であるハイサム・マハムードを6か月間(令和4年10月から令和5年3月)京大に招へいし、共同研究を行った。令和5年1月には、エジプトからファラジュ・ファハラーニを二週間招へいした。同時に、鷲見朗子科研(20340466)でレバノンから招へい中だったイナース・ハンサと協力し、国際ワークショップ「アラビア語とヘブライ語の物語」(イナース、鷲見、ハイサム、勝又、ファラジュが発表)を開催した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の初年度である令和3年度は、国内の研究チーム(代表者、分担者、協力者)内部での研究準備のための活動を中心に行った。4回のzoom研究会を通して、「聖書の語り直し」の個別ケースの報告や、全体的な理論的枠組みの構築に向けた検討を十分に行うことができ、研究を順調に進めることができたといえる。一方、令和3年度においてもなおコロナ禍の影響が依然として存在していたため、海外研究協力者との実質的な共同研究活動はほぼすべてストップしたままであった。具体的には、海外での学会への参加や現地での資料調査、海外からの研究者の日本への招へいといったことが、全くできなかった。そのため、海外研究者との共同研究のための予算を令和4年度に繰り越すことにした。その結果、令和4年度においてはコロナ禍の状況が大幅に改善されたため、海外研究者との共同研究を十分に行うことができた。結果的に、令和4年度内に繰越分によって行うことができた研究活動を合わせて考えると、初年度である令和3年度の研究は順調に進んでいると言える。
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今後の研究の推進方策 |
初年度である今年度は、国内の研究メンバーが、ユダヤ文献における「聖書の語り直し」の諸相について、様々な時代や地域、文献ジャンルからの研究発表を行い、それらについての議論を重ねていく中で、一方では、「聖書の語り直し」という現象の持つ、時代、地域、文献ジャンルを超えた共通性や普遍性が、他方では、各事例にみられる特殊性も明らかになってきた。それに伴い、表面的な文献調査を広く浅く行うことに終始するという事態にならないように、何らかの時代、地域、文献ジャンルにおける「聖書の語り直し」現象について集中的に研究を行い、より重厚で実質的な研究成果を出すことが必要であるという認識に至った。よって、今後の方向性としては、ユダヤ学の諸分野の中で、これまで比較的に研究蓄積が多くなく、同時に、研究する価値が十分にあると思われる重要なテキストを、特定の時代、地域、文献ジャンルから選び出し、集中的に研究し、国際的な共同研究も行うことで、世界的に評価される最先端の研究成果を出すことを目指すことにしたい。特に、令和3年度からの繰越金を使って令和4年度内に行った、中世アラブ・イスラーム社会に生きるユダヤ人によって創作されたヘブライ語作品やユダヤ・アラビア語作品と、同時代、同地域に生きるムスリムによって創作されたアラビア語作品との比較研究は、ユダヤ人による「聖書の語り直し」の貴重なケーススタディとして、大いなる潜在性を秘めている。
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