研究課題/領域番号 |
21H04347
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
勝又 直也 京都大学, 人間・環境学研究科, 教授 (10378820)
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研究分担者 |
勝又 悦子 同志社大学, 神学部, 教授 (60399045)
志田 雅宏 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 講師 (10836266)
加藤 哲平 九州大学, 言語文化研究院, 助教 (70839985)
大澤 耕史 中京大学, 教養教育研究院, 助教 (40730891)
山城 貢司 東京大学, 先端科学技術研究センター, 特任研究員 (50890274)
宇田川 彩 東京理科大学, 教養教育研究院葛飾キャンパス教養部, 講師 (20814031)
嶋田 英晴 同志社大学, 研究開発推進機構, 共同研究員 (90732868)
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研究期間 (年度) |
2021-04-05 – 2025-03-31
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キーワード | ユダヤ / 聖書 / 語り直し / ユダヤ教 / ヘブライ語 |
研究実績の概要 |
令和4年度は、国内の研究チームとしては7月にZoom研究会を開催し、代表者が中世ヘブライ文学史上の最高傑作『タハケモニ』における「聖書の語り直し」について、報告発表をおこなった。その後、本プロジェクトの今後の方向性について、メンバー内で十分に議論を重ねた。8月には、4年に一回イスラエル・エルサレムのヘブライ大学にて開催される、世界のユダヤ学における最大イベントである世界ユダヤ学コングレスに、分担者の大澤と志田、および協力者の平岡が参加し、各自発表を行った。同じく8月に、本科研費でOAとして雇用している博士後期課程学生の菅野が、エルサレムとハイファで開催された国際ユダヤ・アラビア語学会にて発表した。さらに、令和5年3月には、中世アラビア語、ヘブライ語写本の調査のため、代表者、菅野、ハイサムが、アイルランド・ダブリンのチェスター・ビーティ図書館とローマのバチカン図書館に出張した。 海外研究協力者との共同研究に関しては、代表者は、イスラエルのヨセフ・ヤハロムと共に、9~10世紀スペイン・エジプトのヘブライ語典礼詩人ヨセフ・イブン・アビトゥールの典礼詩テキスト(毎週安息日のシナゴーグでの礼拝の際に読まれた聖書朗読の箇所をもとにして作られた宗教詩)の校訂版の作成と分析を進めた。さらに、令和3年度からの繰越分で今年度内に実施した海外共同研究を、今年度の予算においても拡充して実施した。エジプトのハイサム・マハムードとは、聖書を織り交ぜた中世ヘブライ語の物語『ネウム・トビヤ』のオリジナルとされているアラビア語の物語『バヤードとリヤード』の校訂版の作成と分析を行い、エジプトのアフマド・ゼーネッディーンの協力も得た。ファラジュ・ファハラーニとハムディ・シャーヒドとは、中世ヘブライ語民話『センデバル』とアラビア語民話『シンドバード』との比較研究を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
国内研究チームのメンバーによる多くの研究業績の他に、特筆すべきは、以下の国際共著図書2点の出版準備が進んだことである。シナゴーグにおいて毎週行われる聖書朗読の箇所(パラシャー)に即して創作された、ヨセフ・イブン・アビトゥール(9~10世紀、スペインからエジプトへ)というヘブライ語典礼詩人による詩の校訂版の第一巻(ヨツロート編)をイスラエルのベン・ツヴィ出版会に提出済みであり、現在出版に向けて交渉中である。また、マカーマという文学形式にもとづきヘブライ語で書かれた最初期に属する作品『ネウム・トビヤ・ベン・ツィドキヤ』のオリジナルとされている、アラビア語の物語『バヤードとリヤード』の学術的校訂版(バチカン写本、パリ写本、ダブリン写本に基づく)を完成させ、ドイツの出版社マンシュラート・アルジャマルに提出した。現在出版に向けて交渉中である。これら2点の重厚で国際的な研究業績は、令和5年度中に出版される見込みである。さらに、ヤハロムと共同で行っているヨセフ・イブン・アビトゥールの詩の校訂版の第二巻(スリホート編)と第三巻(ケドゥシュトート編)、ファラジュとハムディと共同で行っているヘブライ語やユダヤ・アラビア語で書かれた『センデバル物語』とムスリムのアラビア語で書かれた『シンドバード物語』の比較研究、ハイサムと共同で行っているアラビア語『バヤードとリヤード』とヘブライ語『ネウム・トビヤ』の比較研究も引き続き行っており、令和6年度末までに出版にこぎつけたい。これらは、いずれも、ある特定の地域、時代(中世イスラーム圏)において、ヘブライ文学が、聖書から始まるユダヤ教的な伝統を守りながら、いかにマジョリティの文学の影響を受けていたのかを示す最適の例であり、「聖書の語り直し学」の研究成果の骨格をなすものである。以上のように、本研究課題は現在まで順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
中世のアラブ・イスラーム社会に生きるユダヤ人によって生み出された、ヘブライ語およびユダヤ・アラビア語の文学作品の研究を、「聖書の語り直し」の現象を極めて明らかに、かつ興味深い形で体現した文献として位置づけ、研究の中心に据える。特に、エジプトのカイロ旧市街であるフスタートで発見されたゲニザ文書(ベン・エズラ・シナゴーグだけでなく、近隣のバサーティーン・ユダヤ人墓地にもいまだ多くの写本が埋まっていると言われている)は、今後も新たな写本の発見が大いに期待できるものであり、極めて重要である。実は、ユダヤ学において、「中世イスラーム圏のユダヤ人」は、その重要性にもかかわらず、ユダヤ研究において最も手薄となっているテーマの一つであった。この時代、この地域に絞って今後の研究を集中的に行うことは、国際的な学術界においてインパクトのある独創性な研究成果を発表するという観点からも、ぜひとも戦略的に推進すべきテーマであると判断した。研究代表者は、主に海外の研究協力者と活発な共同研究を行う。具体的には、エジプトのファラジュ、ハイサム、ハムディ、イスラエルのヤハロム、アシュール、オランダのベックムらとはすでに共同研究の実績があり、本研究課題においても協力してもらえることになっている。一方、国内チームにおける研究分担者3名(大澤、加藤、志田)は、代表者が海外研究協力者らと集中して研究を行う「中世イスラーム圏のユダヤ人」以外の時代、地域における「聖書の語り直し」現象についても引き続き研究調査を進めるとともに、「聖書の語り直し」研究の理論的な枠組みなどについても検討を続ける。
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