研究課題/領域番号 |
21H04353
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
下田 一太 筑波大学, 芸術系, 准教授 (40386719)
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研究分担者 |
本村 充保 奈良県立橿原考古学研究所, 調査部調査課, 総括研究員 (00270778)
内田 悦生 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (40185020)
山田 和芳 早稲田大学, 人間科学学術院, 教授 (60508167)
田畑 幸嗣 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (60513546)
佐藤 由似 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所, 企画調整部, 主任専門職 (70789734) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2021-04-05 – 2026-03-31
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キーワード | アンコール / サンボー・プレイ・クック / 航空レーザー測量 / 地下探査 / 都市構造 / 古環境復元 / 水利構造 |
研究実績の概要 |
本研究は、クメール王朝の主要な都市遺跡を対象として、航空測量によって得られた高精度の地形情報と、建築学・考古学・地形学等の現地調査に基づき、主としてアンコール遺跡群内アンコール・トム(AT)、サンボー・プレイ・クック遺跡群(SPK)、バンテアイ・チュマール遺跡群(BC)、クーレン山中の遺跡群マヘンドラパルヴァータ(Kulen)を対象として、以下の5つのアプローチより研究に取り組み、研究実績が蓄積されつつある。 【A】各調査対象地において航空レーザー測量(LiDAR)の地形データに基づく都市構成要素の分布・配置の検出と都市遺跡地図の作成を進めている。【B】都市構成要素である宗教遺構、政庁施設(王宮、官衙)に推測される遺構、水利遺構(水路・溜池・ダム・環濠等)、交通遺構、耕作遺構の地上調査を行い、現況記録を重ねている。特に、SPKにおいては、都城区と寺院区を隔てる河川に築かれた治水・利水のダム状遺構群とそれらに関連する宗教施設について詳細な調査を進めている。また、今年度からはBCとKulenの水利構造に関する現地調査を開始した。【C】宗教・政庁遺構の分布把握のために、SPK、AT,BCにおいて地下探査(GPR)の利用可能性の実証と探査地区を拡大している。【D】宗教・政庁遺構における建築学・考古学的発掘調査による遺構分析と出土遺物調査や輸入陶磁器による交易を分析するために、主としてSPKの都城内の複数遺構(M.51、M.90、M.99、M.103サイト)での調査を実施した。またAT内のポスト・アンコール期寺院遺構の悉皆調査、BC内外の遺構での建築調査と三次元形状記録を進めている。【E】各都市の水利構造の解明と堆積土壌分析による土地利用変遷や古環境復元を目的とし、AT内の水路・溜池遺構とSPKの環濠・溜池・水田耕作跡において発掘調査やボーリング調査を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究対象としている各遺跡群に対して、以下のように研究が進捗している。 【サンボー・プレイ・クック遺跡群】都城地区における包括的な記録と調査、遺跡群内外の水利構造については順調に研究が進んでいる。ただし、地下探査については当地の環境上の制約より、利用できる時期が限られており、また探査結果の解釈が困難なこともあり、予定していた研究状況には至っていない。 【アンコール遺跡群内アンコール・トム地区】昨年度まで進めていた地区内の遺構踏査と既往研究の整理を進め、今年度からは特定遺構の記録を開始した。また水利構造の解明を目的として考古学的発掘調査を開始するに至った。 【バンテアイ・チュマール遺跡群】アンコール王朝後期(12世紀後半)の地方都市を代表するものとして、本研究での現地調査の実施を企図してきたが、今年度はカンボジア政府との複数年にわたる研究協定を締結するに至り、2度にわたる現地調査を実施した。既往の研究実績が少ない対象であり、本科研でも目的である航空測量データによる検出遺構の現地調査によって新規情報が多く獲得されつつある。 【クーレン山中内マヘンドラパルヴァータ遺跡群】当地における研究蓄積のある海外研究者と連携して、煉瓦造祠堂の分析を目的とした遺構の悉皆調査、地域内の水利遺構の調査を進めている。航空測量データによって認識される小規模な遺構については、現地の自然起伏が大きく、また密林地区でもあり遺構確認が容易ではなく、より長期にわたる踏査を実施することが求められる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究では、昨年度までに実施したサンボー・プレイ・クック遺跡群における発掘調査で得られた各種試料の国内分析と、アンコール・トム、バンテアイ・チュマール遺跡群における現地調査を大幅に進展させることを計画する。 サンボー・プレイ・クック遺跡群の現地調査においては、過去2年間にわたり、環濠、水路、溜池、土堤、水稲耕作の畦畔等の社会インフラとなる痕跡について発掘調査を実施しており、発掘調査時に得られた土壌サンプリングより、花粉・珪藻・プラントオパール・昆虫遺体・微粒炭・粒度分布・炭化物年代測定の各種分析を進め、都城の造営・利用・放置にいたる過程、周辺の土地利用、古環境変化の検証を進める。 アンコール遺跡群のアンコール・トムにおいては、外郭構造となる環濠や周壁の精確な規模を確定し、都市内部に確認されている不規則な交差水路網や主要な寺院施設の配置計画を明らかにするための分析を進める。特に、古代インドの都市造営の思想や技術、同時代の中華都市の設計方法をふまえてこれらの分析を図る。また、昨年度に開始した水路と溜池における予察的な発掘調査の結果を踏まえて、より発展的な現地調査を継続する。さらに、これらに隣接した居住地と想定される地区での調査を行い、都城内の社会・居住環境の復元や変遷に関する分析を実施する。 バンテアイ・チュマール遺跡群においては、主要な遺構において三次元形状記録をもとに図面記録化と寺院境内での発掘を実施し、その機能分析や復原考察を試みる。また、寺院の環濠あるいは大規模貯水池でのボーリング調査により通時的な堆積土を採取することでこの都市遺構における歴史的展開を考察する。
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