研究課題/領域番号 |
21H04359
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
南 雅代 名古屋大学, 宇宙地球環境研究所, 教授 (90324392)
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研究分担者 |
若木 重行 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 超先鋭研究開発部門(高知コア研究所), 副主任研究員 (50548188)
高橋 浩 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 地質調査総合センター, 主任研究員 (70357367)
佐藤 亜聖 滋賀県立大学, 人間文化学部, 教授 (40321947)
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研究期間 (年度) |
2021-04-05 – 2026-03-31
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キーワード | 火葬骨 / ヒドロキシアパタイト / ストロンチウム同位体比 / カルシウム同位体比 / 炭素同位体比 / バリウム濃度 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、有機成分のコラーゲンが残存していない火葬骨に対し、無機成分であるヒドロキシアパタイトに着目し、放射性炭素年代測定に加え、ストロンチウム(Sr)同位体比、カルシウム(Ca)同位体比、炭素(C)同位体比の3つの同位体比、並びに3元素比から、これまで遺跡出土状況や骨の形態等から推定するしかなかった年代、生前の食性ならびに移住に関する情報を火葬骨から直接得ることである。2021年度に実施した内容は以下である。 ①骨試料への元素取り込みとアパタイト結晶状態の関係の解明:現生の獣骨をいくつかに分け、異なる温度で加熱した骨片を、Srスパイク溶液に浸す実験を行い、1週間後、2週間後、1ヶ月後、3ヶ月後、半年後、1年後に骨片を取り出し、C・Sr濃度・同位体比の測定を順次進めた。現在、骨片を取り出した後の溶液に対しても化学処理を行っており、できるだけ早く測定結果を揃え、骨のアパタイトの結晶度と元素の取り込みの速度の関係を定量化し、論文化を目指す。 ②骨のSr・Ca同位体分析手法の確立:Ca分離カラムを準備し、同位体分析手法を確定した。微量のSrに対する高精度Sr同位体分析に関する研究も推進した。 ③地質のSr/Ca比、Sr・Ca・C同位体比の基礎データの蓄積:考古骨資料を分析した地域の植物、土壌の分析を行った。また、日本各地の農作物の入手を試みた。 ④考古骨試料の分析:滋賀県多賀町の敏満寺遺跡石仏谷墓跡、大阪府松原市立部遺跡、京都市本壽寺などの遺跡から出土した火葬人骨の分析を行った。いずれも論文を準備中である。また、水の溶存炭素抽出用の容器を改良し、考古骨試料の前処理に適した反応容器を作製した。 ⑤骨のBa分析:骨のBa濃度は周辺土壌から受けた汚染の影響を強く受けるため、骨が受けた変質の指標となり得る。本年度は、大阪府松原市立部遺跡の骨のBa分析を行い、指標の有効性を検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度は、コロナ禍で、国内出張が自由にできない状況が続いたため、研究分担者(名古屋、高知、つくば、彦根と所属が分散)が揃って対面で議論ということができず、また、実験の遂行に支障があったが、適宜、オンラインで打ち合わせを行い、分析試料を送付して各自の実験を進めることにより、研究をおおむね順調に進めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度に進めた研究内容を踏まえ、2022年度は以下の研究を推進する。 ①骨試料への元素取り込みとアパタイト結晶状態の関係の解明:これまでに得られた結果をまとめ、骨のアパタイトの結晶度とSr・Cの取り込みの速度の関係を定量化し、論文化を目指す。また、次はSrだけでなく、Ca・Ba混合スパイクも加えた溶液に浸す実験に取りかかる。1週間後、2週間後、1ヶ月後、3ヶ月後、半年後、1年後に骨片を取り出し、濃度・同位体比測定を行い、SrだけでなくCa、Baも含めた骨の元素取り込みを明らかにする。 ②骨のCa同位体分析:標準試薬を入手し、昨年度確立したCa同位体比測定法を用い、既存骨試料の分析に取りかかる。これまでにSr同位体比・Sr/Ca比結果が得られている考古骨試料を選び、Ca同位体比測定を行い、Sr同位体比結果との関係を探る。 ③地質・動植物のSr/Ca比、マルチ同位体比の基礎データの蓄積:現在、行っている植物、土壌のSr/Ca比、Sr・Ca同位体比測定を完了させるとともに、さまざまな地域のいろいろな栄養段階の動物骨のSr/Ca比、Sr・Ca・Cの同位体比を測定していく。 ④考古骨試料の収集・考古学的解釈:滋賀県多賀町の敏満寺遺跡石仏谷墓跡、大阪府松原市立部遺跡、京都市本壽寺から出土した火葬人骨の分析結果を論文として公表する。また、さらに本研究課題の遂行に必要な考古骨試料の収集を行い、分析数を増やす。これまでの研究で、Ba濃度は骨が埋没土壌から受けた汚染によって高くなる傾向が見られ、骨がうけた変質の指標となり得ることがわかっている。本年度は、遺跡から出土した骨試料に対してBa分析も行い、Ba濃度・同位体比が骨の変質の指標として有効かどうかを明らかにする。 また、2021年度は、研究集会等を行い、論文公表に加え、得られた研究結果を広く公表していくことを目指す。
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