研究課題/領域番号 |
21H04396
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
中村 良太 一橋大学, 社会科学高等研究院, 教授 (00717209)
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研究分担者 |
井深 陽子 慶應義塾大学, 経済学部(三田), 教授 (20612279)
YAO YING 公益財団法人アジア成長研究所, 研究部, 上級研究員 (30810915)
Wang Hongming 一橋大学, 社会科学高等研究院, 非常勤研究員 (20867048)
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研究期間 (年度) |
2021-04-05 – 2025-03-31
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キーワード | 費用対効果 / 閾値 / 医療経済学 / 医療政策 |
研究実績の概要 |
費用対効果の閾値の導出に関する実証研究のレビューを行い、直近の分析結果と共に、この文献における因果推論の方法等に関して検討し取りまとめを行った。行政データからパネルデータを構築し、操作変数法による因果推論を行う方針を固めた。 日本においては、厚生労働省のレセプト情報・特定健診等情報データベースの利用申請作業を進め、本申請を行った。2009年から2022年までの日本全国の保険診療報酬請求データと、40歳以上の特定健診のデータ取得について使用許諾を得た。データクリーニングと名寄せ等の作業に関して、これらの作業の委託先企業と検討を行い、データ形式等について合意した。また、日本における新型コロナウィルスワクチンの配分問題に関する研究論文を執筆した。 シンガポールでは、計323の行政区画ごとの医療費や死亡率等のデータをまとめて医療費支出と死亡率との関係について定量評価すべく保健省に対してデータ利用申請を行った。シンガポールへの出張を行い、共同研究者との研究打ち合わせを行った。 ブータンでは、一次医療圏ごとの死亡・疾病発生状況や、全ての医療機関への予算配分等のデータの収集と整備の作業を継続して行った。また、健康への支払用意額の推定のための質問票を作成した。この質問票を2023年に実施予定の国民健康調査に盛り込むべく、その準備として、現地において質問票のパイロット調査を行った。 タイにおいて、過去2回にわたり費用対効果の閾値が変更されており、これを準実験として捉えて、閾値を変更したことにより医療資源配分への影響についての実証研究を行った。保健省のNational List of Essential Medicine Committeeと協働して、同Committeeが過去に行った費用対効果評価に基づく意思決定の結果や、その際の費用対効果の結果など、分析用のデータ収集や整備を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画通り、厚生労働省のレセプト情報・特定健診等情報データベースの利用申請作業を進め、本申請を行った。また申請が承諾された。一方、研究チームの責任に拠らない理由で同データの送付が大幅に遅延する事態となり研究遂行に遅れが出た。この点については、日本における研究の代わりにタイにおける研究に資源を投入して予定を前倒しして遂行することで研究全体の進行の遅延を最少化した。 シンガポールでは、医療費および死亡率等のデータについて、保健省に対して利用申請を行った。新型コロナウィルス感染症パンデミック後初めてシンガポールへの出張を行い、共同研究者との対面での研究打ち合わせを行い、研究の進捗、データ使用許可の見通し、分析計画について議論を行った。 ブータンにおいては、計画通りに過去10年の一次医療圏ごとの死亡・疾病発生状況や、全ての医療機関への予算配分等のデータの収集と整備の作業を継続して行ったが、現地データにイレギュラーな点が散見されるため、その実態把握や修正に時間が取られている。これはブータンに限らず行政データの分析では起きうることであり、データ整備の課題も予想の範囲内であると考えられる。健康への支払用意額の推定のため国民健康調査への調査票の反映を行った。この調査は2023年度に同国において実行される予定であり、想定通りに調査準備を終えた。本調査の結果と合わせて、ブータンにおいては二つの異なるアプローチによって費用対効果の閾値を導出することになる。 タイにおいては、保健省のNational List of Essential Medicine Committeeとの共同研究を実施し研究プロトコルを査読付き研究誌に公表し、オンラインにて国際ワークショップを開催しており、計画よりも早く研究が進行している。
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今後の研究の推進方策 |
費用対効果の閾値の導出に関する実証研究では各国の別チームによる研究が進んでおり、文献レビューや進行中の研究チームとの連携を含めて情報収集に努めつつ研究を行う。 日本においては、厚生労働省のレセプト情報・特定健診等情報データベースのデータ提供が遅れているが、早期に提供されることを前提にデータ整理等を委託した外部企業との連携を進める。特に、二次医療圏、性別、年齢層、疾病別に2009年から2022年度までの医療費の動向を分析するためのデータ整備と分析を行う。 シンガポールにおいては共同研究者と綿密に連携しつつ、データ利用許諾後は研究計画と打ち合わせ内容に沿ってデータ分析の支援を行う。SAPPHIREやHTAsiaLink等の国際学会の開催時に対面での打ち合わせの機会を設けて共同研究を進める。 ブータンにおいては、日本から研究補佐員を派遣してデータの収集・整理と分析に充て、作業を早急に進める予定である。国民健康調査の調査実施やデータ収集については政府当局と綿密に連携し技術的な支援を行う。データ収集が済み次第、データの整理と分析を進める予定である。 タイにおいては、出版したプロトコルと国際ワークショップで得られたコメントを元に分析の改訂を進め、最終的な結果を論文として取りまとめて国際査読誌に投稿する予定である。後続研究を支援するため、本研究で収集したデータを公開するための準備も行う。 国際共同研究実施のためのネットワーク維持と拡大のため、タイ保健省、シンガポール国立大学を含む本研究の共同研究グループと共同でStrengthening Active Partnerships for Policy and Health Intervention Research and Evaluation (SAPPHIRE)の年次会合を対面で開催する計画である。
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