研究課題/領域番号 |
21H04398
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
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研究分担者 |
大山 睦 一橋大学, 大学院経営管理研究科, 教授 (20598825)
石田 潤一郎 大阪大学, 社会経済研究所, 教授 (40324222)
花木 伸行 大阪大学, 社会経済研究所, 教授 (70400611)
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研究期間 (年度) |
2021-04-05 – 2026-03-31
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キーワード | 日本の産業革命 / 高度技術者 / 経済成長 / 産業発展 / 官立高等教育機関 |
研究実績の概要 |
技術革新や産業発展、ひいては国家の持続的な経済成長において、高度人材の育成・活用は不可欠である。しかし、そのような高度人材―とりわけ技術者―の存在が企業成長や産業発展に及ぼす効果についての研究は、その殆どが記述的なケーススタディか地域別総計など大まかな指標に基づく分析に留まっている。したがって、高度技術者人材のストックが増大することが、どのようなメカニズムで産業発展や経済成長に結びつくのかということについての理解は未だ乏しい。本研究では、日本における産業革命期、すなわち明治-昭和初期における諸外国への急速なキャッチアップに焦点を当て、帝国大学や旧制高校、高等工業学校といった官立高等教育機関において訓練を受けた技術者の役割について実証的な分析を行う。ここでいう技術者とは、特定分野における財の生産・流通・販売に関わる技術について、高度で専門化された知識を身に着けた人的資本(human capital)を指す。具体的には、各校の卒業生名簿を用いて、彼らの専門性、雇用主、所在地等についてパネルデータを構築し、さらには、日本特許庁に登録された特許データや各都道府県の工場データ及び企業データと上述した技術者データとを結び付ける。それにより新技術の導入、企業成長といったアウトカムに関する包括的な実証分析を行う。また、技術者レベルのデータを活かして、発明活動や企業間移動、人的ネットワーク、地理的分布といった包括的な分析を行う。この研究の意義は、単なる日本の産業革命に対する歴史的な理解の促進に留まらず、現代においても重大な課題である技術者の育成及び活用についての政策的示唆を導くことを主目的とするものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本プロジェクトの第一段階として、プロジェクトの基盤となる技術者データの構築を行った上で技術者の企業間移動について分析を行った。とりわけ日本の産業化に大きな役割を果たした企業グループ(「財閥」)内での人材配分に着目し、企業グループ内での移動とそれ以外の移動を分けて、それぞれが技術者の発明(特許取得)で測った成果にどのような影響を及ぼしたか研究した。 上記の研究から、企業グループ(「財閥」)が重化学工業等の新しい分野に進出する際、最も優秀な技術者をその新しい分野に配置し、その結果技術者の発明活動も大きな刺激を受けていたというこれまでの文献では示されていなかった興味深い結果を得た。その一方で、親企業から独立して起業する技術者も少なくなく、その活動の結果として多数の著名な企業や「新興財閥」が産まれたこともわかった。 さらには技術者の人的ネットワークの分析も行い、既存の先輩発明家がいる組織・企業に新しく雇われた技術者が他の技術者と比べて自ら発明家になりやすいかどうか、またなりやすいとしたらどのような要因がそれにインパクトを与えるか調べ、卒業時の席次を高等技術教育のアブソープション(習得)の度合いの指標として用いて、知識伝授の「発信側」の先輩発明家の席次と「受け入れ側」の後輩発明家の席次のそれぞれが発明家としての生産性に及ぼす効果を分析した。分析の結果として、知識伝授には「発信側」の先輩発明家の席次だけでなく、「受け入れ側」の後輩発明家の席次も大きく寄与しているという暫定的な結論が得られたが、もしそれがその通りであるならば、知識伝授の実証研究ではこれまでに示されたことのない新しい事実であり、これをもとに新しい理論の構築と、それをさらに裏付ける実証研究につながる。
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今後の研究の推進方策 |
現在までの成果を踏まえて(1)産業間と産業の中でも異なった企業への技術者配分のさらなるパネルデータ分析と、(2)発明家、特にグローバルな特許を伴う発明家のネットワークとその効果に関する分析を深めて、学術論文の執筆を行う。 (1)に関しては産業別の技術者の配分のデータを更に活用し、特定の企業への配分、そしてそれらの企業のパフォーマンスへの影響をミクロレベルで分析する。具体的には、技術者が集結する企業とそうでない企業の成長、利益等の違いをDifference-in-difference等の計量経済学的手法を用いて分析し、技術者が果たした役割を特定化する。また、技術者が特定企業に集中する要因も分析の対象とする。この分析を行うためには本プロジェクトの予算で購入した日本ビジネスアーカイブオンライン(J-DAC)へのアクセスを活用し、各企業の営業報告書をコーディングする作業を行う。資料が膨大のため、とりあえず日本の産業革命に特に重要であった化学工業からデータコーディング、分析を始める。また、分析結果を踏まえてDistance to Frontier and Growth(Acemoglu et al., 2006)等で提示されている既存の理論を検証しながら必要に応じて独自の理論的枠組みを構築していく。 (2)に関しては発明家(特許保持者)とグローバル発明家(米国等、日本以外の特許保持者)の就職先のパネルデータが完成したのを踏まえて、新しく雇われた技術者への知識伝授の過程をより深く分析する。具体的には上記の「受け入れ側」の後輩発明家の席次の影響が本当に高等技術教育のアブソープションによるものなのか、それとも単純に席次の高い先輩・後輩が同じ場所に集まって一緒に仕事をしているソーティングの結果なのか注意深く見極める必要がある。マッチングモデルやネットワーク理論等を用いてその分析を行う。
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