研究課題/領域番号 |
21H04435
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
佐藤 宇史 東北大学, 材料科学高等研究所, 教授 (10361065)
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研究分担者 |
相馬 清吾 東北大学, 材料科学高等研究所, 准教授 (20431489)
中山 耕輔 東北大学, 理学研究科, 助教 (40583547)
菅原 克明 東北大学, 理学研究科, 准教授 (70547306)
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研究期間 (年度) |
2021-04-05 – 2025-03-31
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キーワード | エキゾチック準粒子 / 角度分解光電子分光 |
研究実績の概要 |
本年度は、昨年度に引き続き、角度分解光電子分光(ARPES)-分子線エピタキシー(MBE)複合装置の開発と、それを用いたエキゾチック準粒子の探索を行った。真空紫外レーザー光源系のprobe光とpump光の同期などにより、2光子ARPESができるように調整を行った。また、試料位置の精密制御のために、高速クローズドループ制御の試料精動機構を導入して装置の除振対策を施すことにより、高精度の空間分割ARPES測定を実現した。MBE装置においては、試料作製槽内に組み込んだ蒸着源、回折装置、膜厚モニタなどの最適化調整により、原子層物質における高精度ARPES測定を実現する舞台を整えた。本装置や高輝度放射光を用いて、主に以下に示す研究成果を得た。線ノード型準粒子をもつと期待されるトポロジカル半金属超伝導体CaSb2の電子構造を決定し、線ノード型準粒子が現れる電子ポケットが欠如した状態でも超伝導が現れることを見出し、ブリルアンゾーンの中心におけるホールポケットが超伝導に重要な役割を果たすことを示唆した。カゴメ超伝導体Cs(V1-xNbx)3Sb5の電子構造をARPESによって決定した。その結果、これまで提案されている超伝導機構のモデルはVの電子だけを考慮したものがほとんどであったのに対して、V電子とSb電子が協力しながら超伝導を実現していることが明らかになった。原子層遷移金属ダイカルコゲナイドの研究においては、ダビデの星が密に整列することでモット絶縁体になるNbSe2とは異なり、原子層NbTe2はダビデの星が隙間を空けながら規則的に配列した金属となることを初めて明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ARPES-MBE複合装置の開発においては、微小スポット低エネルギー励起光源系の開発・調整が進み、2光子光電子分光を含めた高精度の空間分解ARPES実験が行えるようになった。また、MBE装置と連動したARPES実験や試料育成と電子状態解析のフィードバックも問題なくできるようになった。原子層遷移金属大ダイカルコゲナイドNbTe2における特異なダビデの星型電荷秩序構造の観測は、ダビデの星の配列パターンにより原子層物質の伝導性を制御できることを示したものであり、原子層材料における新たな物性創発やデバイス化への道を拓くと期待される。また、かごめ超伝導体で明らかになったVとSb軌道の協働性は、超伝導機構の解明とより高い温度で超伝導になる物質の設計に指針を与えるものである。以上のことから、本研究は概ね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、ARPES-MBE複合装置の開発とそれを用いたエキゾチック準粒子の探索を、主に以下の内容について行う。(1) 空間分割ARPES装置の開発: 2光子ARPESシステムの光路系の調整を行い、空間分割ARPES測定に加えて、フェルミ準位より上の電子構造のスピン偏極バンド構造を決定できるようにする。(2) 原子層薄膜作製MBE装置の開発: 原子層薄膜MBE-ARPES複合装置の整備を継続し、種々の原子層薄膜の作製とその場構造評価を行う。(3) マヨラナ準粒子の母体となる超伝導ヘテロ構造の開拓: マヨラナ準粒子探索のプラットフォームとして最近注目されているカゴメ超伝導体の電子構造を高精度で決定し、トポロジカル超伝導の可能性を検証するとともに、エキゾチック二次元格子を有する系と超伝導体のヘテロ構造を作製して、フェルミ面のトポロジーを決定する。(4) 磁性トポロジカル物質におけるアキシオンの探索: アキシオンを内包すると期待される反強磁性絶縁体において空間分割ARPES測定を行い、反強磁性ドメインを分離した表面およびバルクの電子状態の解明を行い、そのトポロジカル性を検証する。(5) 結晶対称性に基づいた多重ノーダル準粒子の実証: 新奇エキゾチックノーダル準粒子が内包されると期待されるトポロジカル半金属候補物質において、空間分割ARPESによってバルク、表面、およびエッジ状態を分離観測し、新型準粒子のバンド構造の決定を目指す。 (6) 圧力印加ARPESによるエキゾチック準粒子制御: 熱膨張率の違いや力学的歪みを利用して1軸および2軸圧力を試料に印加できる機構を開発してARPES装置に組み込み、量子相転移点に近いディラック電子系や、対称性に保護されたディラック電子系において、圧力印加による準粒子の質量変化を検出する。
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