研究課題/領域番号 |
21H04436
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
木村 剛 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 教授 (80323525)
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研究期間 (年度) |
2021-04-05 – 2025-03-31
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キーワード | フェロアキシャル秩序 / 非相反光学応答 / 電気旋光効果 / 電気磁気効果 / ドメイン |
研究実績の概要 |
【フェロアキシャル物質・物性の開拓】代表的なフェロアキシャル物質NiTiO3とRbFe(MoO4)2を対象として、走査X線回折及び電気旋光効果を用いて、フェロアキシャルドメインの空間分布に対するフェロアキシャル相転移の影響を調べた。その結果、NiTiO3では、形成されるドメインの大きさが相転移を経る際の冷却速度に大きく依存することが明らかとなった。RbFe(MoO4)2では、強軸転移温度全体の広い温度範囲で電気旋光効果測定を行い、フェロアキシャルドメインの形成を確認し、サンプルが転移を経るたびにフェロアキシャルドメインが再構築されることが明らかとなった。このようにフェロアキシャルドメインの視覚化に成功し、フェロアキシャル遷移との関係を明らかにした。
【非相反光学応答を利用した反強磁性ドメイン観測】反強磁性秩序に起因して時間・空間反転対称性が破れる物質Bi2CuO4を対象として、近赤外・可視光領域の光学吸収スペクトルの詳細を調べた。その結果、スピンあるいは光の進行方向の反転により吸収係数が40%以上も変化するという巨大な方向二色性を観測した。さらに異なる3方向から見たときに光の透過率が大きく変化することを明らかにした。この現象は、光の進む向きとスピン構造の相対的な配置によって吸収係数が3つの異なる値をとることに起因する。さらに、電場と磁場の印加により光の透過具合を3段階に切り替えられることを、偏光顕微鏡を用いた測定により可視化することに成功した。
これらの研究成果は,論文での公表に加えて,研究代表者による国際会議での招待講演や研究協力者などによる国内外の学会・研究会などで発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和4年度は、とくに電場印加の下での光学特性の測定を可能とする測定系の構築を進めた。電気旋光効果の測定のため電場変調イメージング法を利用した測定系を立ち上げた。この測定系により、電気旋光効果による微小な透過率の変化の空間分布を精度よく検出することが可能となった。また、同測定系は電磁石やクライオスタットなどと組み合わせることで多様な環境下での測定が可能となった。さらに令和3年度の研究経費で購入したスパッタリング装置により、透明電極の作製を自前で行うことが可能となり、研究の効率が格段に上がった。これらの設備を用いることにより、「研究実績の概要」に記した【フェロアキシャル物質・物性の開拓】に関する研究成果を得ることができた。また、令和3年度には偏光カメラを購入し、偏光変調イメージング法を用いた測定系の立ち上げも行った。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では【物質探索・合成】、【測定手法の構築・測定】、【秩序変数・ドメインの制御】、【新規複合物性・巨大応答の開拓】といったアプローチで新規フェロイック秩序物性としてのフェロアキシャル秩序物性の創成・その学理の構築をはかり、磁気トロイダル秩序など他のフェロイック秩序物性との結合現象に起因する新規物性を開拓する。文献調査などをもとにNiTiO3やRbFe(MoO4)2以外の物質の探索、合成を進める。また、その検証のため、走査X線回折や令和3年度に構築した電気旋光効果測定系を用いたフェロアキシャル構造物性の測定を実施する。また、一軸応力といった外場による秩序変数制御も試みる予定である。さらに上述の電場変調イメージングおよび偏光変調イメージングを用いた測定系を電気旋光効果以外の電場誘起物性、偏光依存物性の測定に応用することにより、さらに多様な新規フェロイック秩序物性研究の展開を図る予定である。
成果発表については、新型コロナウイルス感染の拡大により、国際会議の開催はまだコロナ前の状況には回復していない。そのため、今年度も成果発表の方法として論文発表を中心とした公表となることが予想されるが、可能な限り、会議等での発表も進めていく予定である。
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