研究課題/領域番号 |
21H04437
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
有田 亮太郎 東京大学, 先端科学技術研究センター, 教授 (80332592)
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研究分担者 |
鈴木 通人 東北大学, 金属材料研究所, 准教授 (10596547)
袖山 慶太郎 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 統合型材料開発・情報基盤部門, グループリーダー (40386610)
是常 隆 東北大学, 理学研究科, 教授 (90391953)
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研究期間 (年度) |
2021-04-05 – 2024-03-31
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キーワード | 第一原理計算 / 磁気構造予測 / ハイスループット計算 / 異常ホール効果 / 異常ネルンスト効果 / トンネル磁気抵抗 |
研究実績の概要 |
(1)結晶構造の情報から出発した磁気構造予測については、従来のクラスター多極子理論を磁気秩序の発生に伴ってユニットセルが大きくなるケースに拡張した。この拡張により、トポロジカルホール効果の舞台となるmultiple-q構造などが磁気構造予測の予測範囲の中に入ってくることとなる。 (2)応答関数のデータベース構築については、q=0のケースの計算を続けている。これまで磁気転移温度が高い150種類の物質について、約3000の計算を行い、約半分のケースについて自己無撞着解を得た。このうち約50のケースで興味深い反強磁性構造が得られた。その中で、10程度の物質については、一様磁化がほとんど小さいにもかかわらず異常横伝導を示し、かつエネルギー的にも安定であることがわかった。 (3)マルチポロニクスデバイス開発にむけた研究としては、前年度に引き続き、反強磁性体におけるトンネル磁気抵抗についての第一原理計算、モデル計算をおこなっている。前者についてはMn3Snで実際にトンネル磁気抵抗が観測されることを明らかにした。後者については強磁性状態、フェリ磁性状態、反強磁性状態を統一的に扱う計算を行い、絶縁層における局所状態密度を計算するだけでトンネル磁気抵抗を精度よく予測できることを明らかにした。 (4)与えられた物質について、その交換相互作用を見積もる手法を活用し、スキルミオン物質の物質探索を行った。特に実空間でサイズの小さなスキルミオンは応用上の観点からも重要である。Gd化合物について系統的な計算を行い、有望な物質を特定した。このほか、遷移金属酸化物を挿入した遷移金属ダイカルコゲナイドについて48種類の計算を行い、その多様な磁性の発現機構を議論した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)磁気構造の予測法について、有限qの場合が調べられるようになり、探索範囲が広がった。この中で興味深い物質としてはCoを挿入したTaS2、NbS2が挙げられる。これらの磁気構造はこれまで明らかになっていなかったが、実験グループとの共同研究により、この系の磁性状態がトポロジカルホール効果を示す非共線的な構造であることが明らかになった。結晶構造の情報から磁気構造の予測をする成功例として評価される。 (2)応答関数のデータベース構築については、その過程でこれまで異常横伝導を示すことが知られていなかった反強磁性体をいくつか見出すことができた。これらの物質のいくつかは実験グループと共同研究が行われており、今後の展開が大変興味深い。強磁性体で成功したハイスループット計算が反強磁性体についても成功すれば、機能性反強磁性体の探索にも弾みがつくと期待される。 (3)マルチポロニクスのデバイス開発については、トンネル磁気抵抗の研究が大きく進んだ。特にMn3Snについて行われた研究は激しい国際競争の中、実験グループとの共同研究の成果がNature誌に掲載された。一般にトンネル磁気抵抗の計算は計算コストが非常に高いが、モデル計算の結果が示唆する、局所状態密度に基づく簡易計算が確立すれば、今後対象物質の幅が大きく広がることが期待される。 (4)2022年度に行われた有効模型の導出をハイスループット計算で行うアプローチが確立すると、磁気構造予測にも応用ができると考えている。このアプローチは磁気秩序の発生に伴ってユニットセルがどんなに大きくなっても適用可能で、さらに一歩進んで物性予測にも展開が期待される。
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今後の研究の推進方策 |
(1)磁気構造の予測法について、有限qの場合についてのハイスループット計算を行う。予備的ではあるが、いくつかの物質について有望な結果が得られており、実験グループとの共同研究を進める。 (2)(1)で得られた物質を中心に応答関数のハイスループット計算を行う。安定構造だけでなく、準安定構造のリストを作ることができることもこのアプローチの強みであり、その利点を活かした研究を推進する。 (3)最近、与えられた磁気構造から、その磁気空間群を特定するコードが発表されたが、このコードの開発者と共同で、与えられた磁気構造からスピン空間群を特定し、その物性を予測する試みに挑戦する。 (4)(3)を基礎において、反強磁性体の非相対論的電子状態において、どの波数でどれくらいのスピン分裂がおきるかの考察を行う。この情報は反強磁性体のトンネル磁気抵抗を設計するための指針を与えると期待される。反強磁性体のトンネル磁気抵抗のモデル計算はこれまでコリニアな構造のみを考察してきたが、より非自明なノンコリニアな構造を考察対象とした計算に取り組む。 (5)磁性体の有効模型導出については、これまで交換相互作用やジャロシンスキー守谷相互作用に注目してきたが、より高次の相互作用に注目した方法論開発に着手し、スキルミオン物質についてより詳細かつ現実に近いシミュレーションを行う。
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