研究課題/領域番号 |
21H04443
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
笠原 成 岡山大学, 異分野基礎科学研究所, 教授 (10425556)
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研究期間 (年度) |
2021-04-05 – 2025-03-31
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キーワード | 新奇凝縮状態 / 奇パリティ秩序 / 熱輸送測定 / 磁気トルク測定 / ネマティック秩序 / ネマティック量子臨界点 / FFLO超伝導 / 量子液晶 |
研究実績の概要 |
電荷・スピン・軌道といった複合自由度が絡み合う強相関電子系物質においては、多種多様なエキゾチック凝縮相が創発される。本研究では、そのようなエキゾチック凝縮相の探索と解明を主眼におき、時間および空間反転対称性の両者を自発的に破る奇パリティ秩序 (=アナポール秩序)などの研究を進めている。当該年度は、鉄系超伝導体FeSe1-xSxにおける回転対称性の破れたネマティック相とその量子臨界現象に関する物理を調べるとともに、FeSeにおいては、超伝導電子対が有限の重心運動量を持つことによって、自発的に空間並進対称性を破るFulde-Ferrell-Larkin-Ovchinnikov(FFLO) 超伝導相と考えられる高磁場超伝導相の存在について、面直磁場下の精密比熱測定、輸送測定、磁気トルク測定、走査トンネル顕微鏡/分光測定といった多角的プローブを通じて明らかにした。また、トポロジカル近藤絶縁体YbB12の低エネルギー励起、キタエフ量子スピン液体における半整数量子熱ホール効果に関する研究報告などを行った。更に、銅酸化物高温超伝導体で報告されている巨大な熱ホール効果を検証するため、室温程度までの熱ホール効果測定を行うシステムの構築に取り組んだ。研究代表者は当該年度より岡山大学へと異動し、新たな研究室を立ち上げることとなった。これにあたり、電気炉や純良単結晶育成環境と、ヘリウム3冷凍機、並びに低消費型クライオスタットの導入による精密物性計測システムの設計に取り組み、研究環境の整備を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウィルスの影響により、実験装置開発において世界的な部材・人材不足が発生し、ヘリウム3冷凍機や低消費型クライオスタットの開発から納入に至るまでのプロセスが大幅に遅れが生じた。このため、研究費の翌年度繰り越し、更には事故繰越を余儀なくされ、研究室における極低温実験に関する遅れが生じた。一方で、単結晶育成環境の整備順調に運び、鉄系超伝導体においては研究機関の異動後も純良単結晶の育成が可能な環境は整えることができ、更に、これによる研究成果が継続的にでている。
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今後の研究の推進方策 |
銅酸化物の熱ホール測定については、高温での熱輻射に加えて測定セルの熱リークなど、多くの問題が未解決となっている。この解決に向けて、測定セルの改良を行う。一方で、比較的低い温度領域においては有効な熱ホール測定が可能となる目処がついてきた。そこで継続して熱輸送測定システムの開発を進める。装置の納入遅れにより研究指針は当初計画と異なる方向に進める必要が生じたが、鉄系超伝導体FeSe1-xSxのネマティック秩序とその量子臨界点に関する物理や、各種のエキゾチック凝縮相に関する研究を進めることができている。このことから、当初の主眼であるアナポール秩序に限らず、様々な凝縮相に関する研究を進めていく。
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