研究課題/領域番号 |
21H04452
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
岸本 泰明 京都大学, エネルギー科学研究科, 名誉教授 (10344441)
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研究分担者 |
深見 一弘 京都大学, 工学研究科, 准教授 (60452322)
今寺 賢志 京都大学, エネルギー科学研究科, 准教授 (90607839)
松井 隆太郎 京都大学, エネルギー科学研究科, 助教 (70870476)
福田 祐仁 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 関西光科学研究所 光量子科学研究部, 上席研究員 (30311327)
井上 峻介 京都大学, 化学研究所, 助教 (40724711) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2021-04-05 – 2026-03-31
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キーワード | 高強度レーザーと物質との相互作用 / 高エネルギー密度プラズマ / 自己組織化 / 高強度磁場生成 / プラズマの閉じ込め |
研究実績の概要 |
本研究は、集光強度が10^18-20 W/cm^2 の高強度レーザーをナノ工学と材料工学の融合技術によって作製したサブマイクロメートルオーダの微細構造を有する物質(構造性ターゲット)に照射することで生成される高エネルギー密度状態のプラズマにおいて、その過程で現出するkTオーダの準定常磁場形成やTV/mオーダの準定常電場形成などの自己組織化機能や構造形成機能を制御することで、これを慣性時間を超えて長時間保持する(閉じ込める)とともに、これによって、中性子を出さない究極の核融合である陽子・ホウ素(P-B)反応の実現など、新しい応用研究を展開することを目的としている。これは、自然界にないnmオーダの人工物質と光との相互作用を制御することにより新機能を創出するメタマテリアル概念に高強度レーザー照射によって生成されるプラズマ機能を取り入れた「非線形領域のメタマテリアル科学」と位置付けられる。この着想に基づいて、これまでの関連理論・シミュレーション研究および実験研究の成果を発展させ、1)構造性ターゲットの作製:高強度レーザー照射時に目的に沿った多様な機能を創出する高エネルギー密度プラズマ生成を可能にする、方向性を有する炭素ナノチューブ(CNT)を含むサブマイクロメートルオーダの微細構造を有する構造性ターゲットの作製技術の向上・獲得に関する研究、2)レーザー照射・計測系の構築:作製した構造性ターゲットに集光強度が10^17-19 W/cm^2領域の高強度レーザーを多様な方向から照射可能な自由度の高い実験系と電子エネルギースペクトル(ESM)を中心として生成プラズマの計測系の構築に関する研究、3)レーザー照射実験の実施とデータ解析:上述のターゲットとレーザー照射系を用いた実験の実施と仮説を裏付ける実験データの取得を目指した研究を展開する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究提案の目的(研究実績の概要)に沿って以下の3項目の研究の進展を実現した。1) 構造性ターゲットの構築:炭素ナノチューブ(CNT)を極限的な構造性媒質と位置付け、シリコン基板上の鉛直方向に300マイクロメートルおよび400マイクロメートルのサイズを有するCNT集合体を準備するとともに、高強度レーザーとの相互作用に大きな影響を与えるCNTの鉛直方向に対する上面および側面の表面状態(揺らぎのサイズなど)を電子顕微鏡によって同定した。また、電子線リソグラフィーとプラズマエッチングを含む半導体技術により、サブマイクロメートルオーダの多様な半径やアスペクト比、空間充填率や比表面積を有するロッド状の構造物(シリコン)を作製する技術を確立した。さらに、レーザー光を閉じ込める機能を有するメタマテリアル様のターゲット開発にも成功した。2) レーザー照射・計測系の構築:上述1)で開発した多様な構造を有するターゲットに集光強度が10^17-19 W/cm^2領域の高強度レーザーを(上面や側面など)複数の方向から異なった偏光方向のレーザーを照射するとともに、生成されたプラズマの電子エネルギースペクトル(ESM)を異なった2方向から同時計測する実験系を構築した。3)レーザー照射実験の実施とデータ解析:1)で開発したCNTターゲットおよび2)で構築したレーザー照射系を用いた集光強度が10^18-19 W/cm^2領域のレーザー照射実験を行い、CNTターゲットの方向性とレーザーの偏光方向の異なった組み合わせによる生成プラズマの電子エネルギー分布計測を行い、組み合わせに依存した電子エネルギー分布を見出し、構造性媒質としてのCNTターゲットの役割を明らかにした。また、500 keVの低い電子のエネルギー領域に相互作用時の電場形成の影響を受けた成分を見出すことにも成功した。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度(2022年度への繰越を含む)の成果に基づき、2022年度以降は、以下の研究を推進する。1) 2021年度において行ったCNT照射実験で得た結果を検証するため、照射レーザーの品質を向上する実験環境を構築するとともに(後述)、電子エネルギースペクトルの角度依存性などを取得する精緻な実験研究を実施する。また、方向性を有するCNTターゲット構造をモデル化した2次元および3次元の相互作用シミュレーションと実験結果の比較検討を行うことにより、極限状態の構造性媒質としての方向性を有するCNTターゲットの特性と役割を解明する研究を進める。本研究で得た知見を基礎に、ファイバーレーザーなどを想定した体内組み込み型の放射線デバイスの可能性に関する基礎研究にも着手する。2)上述1)に関連して照射レーザーの時間的・空間的な品質を向上するため、レーザー照射系にプラズマミラーなどを導入することでプレパル成分やペデスタル成分を除去・制御する研究に着手する。また、構造性媒質の特性を優位に引き出すため、ビーム断面の一様性を保ちつつ高い照射位置安定性を有するレーザーを広域に照射する方策の検討も進める。また、これまで作製した多様なロッド集合体と高強度レーザーの相互作用実験を行い、慣性時間を越えたプラズマの閉じ込めに向けた研究に着手する。また、これを行うために不可欠な生成プラズマのダイナミックスや構造を同定するための密度干渉計測および磁場計測に関する研究にも着手する。また、2021年度に作製に成功したレーザー光を閉じ込める機能を有するメタマテリアル様のターゲットを用いたレーザー照射実験を行い、高強度磁場を伴ったプラズモイドの生成、それらの衝突・合体過程を通した反転磁場配位プラズマの生成など、高エネルギー密度プラズマの閉じ込めに関する研究を開始する。
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