研究課題/領域番号 |
21H04453
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
浜口 智志 大阪大学, 大学院工学研究科, 教授 (60301826)
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研究期間 (年度) |
2021-04-05 – 2025-03-31
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キーワード | 半導体プロセス / 原子層エッチング ALE / 原子層堆積 ALD / プラズマ・プロセス / プラズマ表面相互作用 |
研究実績の概要 |
プラズマ・プロセスを多用する最先端半導体製造では、数ナノメートルの三次元構造体を、原子レベルの精度で、表面を損傷せず加工する必要がある。本研究は、プラズマ表面相互作用の学術的理解を飛躍的に高め、表面反応素過程からプロセス装置まで統合して理論的・実験的に解析することで、原子層精度の加工プロセス(原子層プロセス:ALP)を量子論レベルで理解し、かつ、制御可能とすることを目的とする。手法としては、複雑なプラズマ・プロセスを、個別の素過程に分解して、各種ビーム実験と数値シミュレーションを組み合わせて解析する。本年度は、半導体デバイスに多用されるトレンチ(溝)構造を例にとり、微細で高アスペクト比のトレンチに対して、プラズマ支援原子層堆積(PEALD)プロセスを用いて、一様なSiN膜を成膜し、トレンチをSiNで完全に埋めるプロセスにおけるシーム形成の機構を明らかにした。トレンチの底、および、両側の内壁にSiN膜が形成される際には、最後に、両側の内壁に堆積したSiN膜の表面が互いに接近し、最後に密着する。この密着面がシームとなる。密着直前には、数ナノメートル、あるいは、それ以下の幅しかない空隙を通して、ALDの吸着ステップ(半サイクル)で、ジクロロシラン(SiCl2H2)等のクロロシラン系分子が堆積用プリカーサとして表面に到着し、Si原子が表面に堆積する。また、ALDの脱離ステップでは、窒素・水素あるはアンモニア(NH3)プラズマから生成された各種のラジカルや分子が、この空隙を通して輸送され、表面を窒化する同時に、残余の塩素を脱離させる。この場合、狭い間隙を輸送される気相種は、表面と頻繁に衝突するため、輸送は拡散的となり、表面との化学反応も無視できない。本研究では、特に、脱離プロセスにおける塩素原子の除去機構、分子動力学シミュレーションを用いて、明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
SiNのPEALDプロセスは、SiH2Cl2やSiCl2(CH3)2等のシリコンおよび塩素を含んだ前駆体(プリカーサ)ガス曝露によるSiの堆積ステップと、NH3もしくはN2+H2混合ガスから生成したプラズマ照射による塩素除去および窒化ステップの組み合わせで、プロセスの1サイクルを構成し、このサイクルを多数繰り返して行うことにより、所望の厚さのSiN薄膜を、広い面積で一様に、原子スケールの膜厚精度で成膜する。PEALDによるSiN膜堆積において、窒化度の違いや塩素や炭素等の不純物の残留が薄膜の特性に影響を与える可能性があるため、プラズマや反応性気体とプロセス表面との反応の深い理解が、SiNのPE-ALDの効率化やプロセス制御に極めて重要である。昨年までの研究で、脱離ステップにおけるHの存在が、吸着ステップの自己停止に必要不可欠なCl原子の除去に必要不可欠であることが知られたが、深いトレンチ構造等へのSiN埋め込みプロセスでは、狭まりゆく空間をHラジカルが、表面と反応せずに溝の底まで輸送される可能性は極めて低い。本研究では、HラジカルがH2分子を形成しつつも、吸着しているCl原子と反応して、揮発性のHClを形成し、それが、拡散現象を通して、除去される機構が明らかにされ、その拡散係数や拡散の活性化エネルギーも決定された。こうした輸送と反応の物理機構は、当初予想していなかったものであり、本物理機構の理解が、本分野の今後の発展に大きく貢献することが予想される。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究では、高アスペクト比のトレンチ構造に対して、SiN PEALDプロセスによりSiNを埋め込むプロセスのシーム形成機構を検討し、塩素除去ステップにおける数ナノメートル以下の幅をもつ空間の気相分子・ラジカル輸送機構と表面反応機構を明らかにした。今後は、その前段階である、シリコン吸着ステップにおける、数ナノメートル以下の幅をもつ空間の気相分子・ラジカル輸送機構と表面反応機構を明らかにする。特に、SiN表面におけるジクロロシランSiCl2H2やH2分子等、揮発性の高い分子と表面の相互作用を、原子レベルで明らかにする。
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