研究課題
これまでの核融合炉研究では炭素壁とプラズマ性能との高い親和性は認知されつつも、放射化の制限から金属壁への変更が進められてきた.QUESTの実験結果から金属プラズマ対向壁では再堆積層と母材間に水素バリアが存在することが発見され、金属表面を能動的に制御することで炭素の特性を活かしつつ放射化を制限する可能性が見出された. そこで本研究では、課題解決の方法として、プラズマに炭素を添加“炭素ドープ”することで対向壁全体に炭素を含有する再堆積層を能動的に形成しつつ、炭素の付着確率の高い150℃以下の低温壁で炭素を回収する“炭素ポンプ”を設置して、プラズマ容器内に滞留する炭素量を制限し、放射化が問題になる水素同位体の吸蔵量を一定値以下に抑えるシステムの構築を提案し、実証する.分子動力学(MD)による素過程計算と基礎実験的検証では、炭素中の水素のポテンシャルを第一原理計算で計算することを進めている。基礎実験的検証のための装置は製作中である。炭素ポンプの開発では、経費を2023年度に繰り越して2023年度に完成をさせた。ペルチェ素子を用いた温度制御システムで温度管理を行う予定であったが、プラズマからの熱負荷が大きいことと真空中での熱接触を十分に行うことが難しいことからペルチェだけでは温度管理が難しいとわかったため、熱伝導の異なる部材を間に挟むことで温度管理を行うこととした。既設高速試料搬送装置 (FESTA)では、プラズマ暴露したSS316L試料の放出ガスが堆積層の有無で放出束が10倍近く異なることを見出した。
2: おおむね順調に進展している
1)結晶炭素で実施している分子動力学(MD)による素過程計算を堆積層の状況に近いアモルファスで実施する準備を行っている。2)炭素ポンプの開発では、予定していたペルチェ素子の温度コントローラの入手が部品不足で間に合わず、2022年度は開発を中断した。2023 年度は自作でコントローラを作成し、温度制御が可能であることを確認した。試験的に真空容器内で温度制御実験を実施したところ、真空中での熱接触の確保が十分ではないこと、プラズマからの熱負荷環境下での温度制御はペルチェだけでは困難なことが判明したため、熱伝導の異なる部材を挟むことで温度制御できることを確認し、炭素ポンプを完成させた。3)既設高速試料搬送装置 (FESTA)は水素循環評価のデータ取得を行い、結果を得た。実機での実証実験は今後の炭素ポンプの性能を確認してから実施予定である。
研究は1)分子動力学(MD)による素過程計算と基礎実験的検証、2)炭素ポンプの開発、3)既設高速試料搬送装置 (FESTA)による微量炭素ドープによる炭素循環評価、4)炭素ポンプの回収効率評価、5)実機による炭素・水素粒子循環制御実験のステップで進める.2023年度は1)ではアモルファス炭素中の水素のポテンシャルを第一原理計算で計算し、MD計算への適用を進める。2)は炭素ポンプの概念設計は完了した。真空中での温度制御は熱接触の確保が重要で、試行錯誤が必須である。このため試験装置での試験を志向したが、ペルチェ素子の温度制御コントローラの入荷が部品不足で間に合わず、2023年度に経費を繰り越した。2023年度も部品の入荷状況が芳しくなく、コントローラを自作することで対応したが、熱接触の問題を解決できなかったため、熱伝導の異なる部材を挟むことで問題を解決した。3)FESTAによる水素循環に関する観測で、堆積層の有無でリサイクリング率が大きく異なる結果を得たので、水素バリアモデルでの説明が可能かを検証する。試料の表面分析を行い、水素の深さ分布から水素バリアの形成が確認できるかを検証する。もし、炭素を含む再堆積層で水素バリアが観測されれば、炭素ドープによる水素循環制御の可能性を示すことになるので重要である。4)については炭素ポンプ完成後に実機に設置して炭素回収率を計測する予定である。5)については4)の結果を確認して炭素ドープしても回収可能かどうかを検証したうえで実施する予定である。
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Nuclear Fusion
巻: 62 ページ: 042011~042011
10.1088/1741-4326/ac29cf