研究課題/領域番号 |
21H04457
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
長嶋 泰之 東京理科大学, 理学部第二部物理学科, 教授 (60198322)
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研究分担者 |
永田 祐吾 東京理科大学, 理学部第二部物理学科, 嘱託特別講師 (30574115)
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研究期間 (年度) |
2021-04-05 – 2025-03-31
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キーワード | ポジトロニウム / 量子干渉 / グラフェン |
研究実績の概要 |
2021年度から引き続き、ポジトロニウムの量子干渉効果を観測する研究を行った。エネルギー可変ポジトロニウムビームを単層および複層グラフェンに入射して透過させ、透過ポジトロニウム像を2次元的に測定した。2021年度からの測定を2022年度にも継続したのは、統計精度を向上させるためである。 本研究では代表者らが開発した世界唯一のエネルギー可変ポジトロニウムビームを用いている。ポジトロニウムは電気的に中性であるため、いったん生成してしまうと必要なエネルギーに加速することができない。そこでポジトロニウムにもう1個の電子が束縛したポジトロニウム負イオンを生成して電場で加速し、レーザー光照射によって電子を光脱離させてポジトロニウムをビームとして取り出している。 試料は、レーシーカーボン上に張られた単層および2、3層のグラフェンである。試料の直径が2mmしかないため、ビームの軌道上に鉛製アパーチャーを置いて直径を1mmに絞って入射した。得られた2次元の回折画像をポジトロニウムの入射位置を中心として円周状に積分し、これを中心からの半径に対してプロットした結果、ピークが現れた。2021年度の測定と比べて統計精度が向上しており、定量的な議論が可能となった。その結果、ピーク構造は明確になったが、電子ビームを入射して得られるピークと比べて強度が低い結果となった。現在、強度の定量的な解析を進めている。この解析ではStrasbourg大のPaul-Antoine Hervieux教授に加わっていただき、理論的な側面から検討を行っている。Hervieux教授は3月に東京理科大学に2週間滞在し、対面で様々な議論を行った。 さらに、ポジトロニウムがグラフェン薄膜を透過する様子を調べる研究も本格的に開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ポジトロニウムビームをグラフェン薄膜に透過させることによって、ポジトロニウムの量子干渉によるピークが得られている。これはポジトロニウムの干渉効果としては世界で初めての成果である。また干渉効果によって現れるピーク強度を求めることにも成功している。実際には同じグラフェン薄膜に電子ビームを入射し、電子ビームの回折スポットの強度と比較することによって得ている。この結果に関して理論的に計算し比較するための検討も行っているところである。さらにポジトロニウムのグラフェン薄膜透過率の測定も開始しており、研究はおおむね順調といえる。 しかしながら2023年度に向けて大きな懸案事項が発生してしまった。それは2023年度に予定していた陽電子線源の購入に2つの障害が発生したことである。1つは線源の価格の高騰である。日本アイソトープ協会に金額の見積依頼をしたところ、\10,890,000であった。これは2021年度に購入した際の1.4倍の金額である。2つ目は発注ができないことである。新型コロナウイルスの蔓延で生産が滞っていたことが原因とのことである。2023年度にはこの問題を何とか解決して新たな線源を購入し、質の高い研究を維持したいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度には、2022年度までに得られているポジトロニウム量子干渉ピークの強度の解析結果を得て、実験結果とともに論文にまとめる。 またポジトロニウムのグラフェン膜透過率の測定を引き続き行う。得られるデータはポジトロニウムと物質の相互作用を知るうえで貴重なデータとなるはずである。さらに進めて、ポジトロニウムがグラフェン薄膜と透過する際のfragmentationの研究も行う。 本研究課題では、反射高速電子線回折と同様の測定、すなわち結晶表面すれすれの角度でポジトロニウムビームを入射し、表面で反射したポジトロニウムの波動関数が干渉する様子を観測することも予定している。そのための準備を行う。 以上の研究を継続して行っていくために、新たな線源を購入したいと考えているが、「現在までの進捗状況」にも書いたとおり、価格の高騰等のために発注が進められない状況が生じている。2023年度にはこれらの問題を解決して線源の購入を行いたいと考えているが、それが不可能な場合には、減衰している現有の線源を用い、長時間の測定を行って今後の実験を継続していく予定である。
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