研究課題
デュアル光学系を採用した小口径望遠鏡では、量子効率や耐久性で利点のある半導体光電子増倍素子を光検出器に採用しており、我々のグループはその基本性能の測定や動作条件の最適化、性能の向上に取り組んでいる。半導体光電子増倍素子の特徴の一つに光電子増倍管のような経年劣化がないことがあり、月夜観測が可能となる。ただし、月夜観測では背景光強度が数十倍となるため、1GHz程度の検出頻度となる。それに伴って、半導体光電子増倍素子の出力電流が増加し、直列抵抗による電圧降下によって、印加電圧が低下する。また、電流値の増加による温度上昇によって、半導体光電子増倍素子の降伏電圧が上昇し、超過電圧(=印加電圧-降伏電圧)が低下する。さらに、半導体光電子増倍素子中の増幅セルに背景光入射後100ns程度はセル内の印加電圧が低下する。印加電圧や超過電圧が低下すると、アバランシェ増幅率や光検出効率が低下する。その結果、信号光による出力パルスの波高も低下する。したがって、月夜観測の背景光強度における半導体光電子増倍素子の出力波高低下を測定し、上述の出力波高低下要因の寄与を評価した。その結果、月夜観測で想定される背景光強度では、出力波高が25%程度低下することがわかった。また、前述の3つの要因のうち、半導体光電子増倍素子の出力電流増加に伴う電圧降下の寄与が80%で支配的であり、温度上昇の効果は12%、増幅セル内の背景光入射後の電圧降下の効果は6%の寄与であることがわかった。測定値は、上述の3つの効果でほぼ説明可能であり、未知の効果による大きな波高低下がないことを確認した。
2: おおむね順調に進展している
月夜観測を実現することは、本研究課題の中心的な課題である。月夜観測を実現する上で予想される障害のひとつである強い背景光環境下での検出器の性能劣化が考えられる。2021年度の研究によって、性能劣化の要因を確定し未知の効果による大きな性能低下がないことを確認した。また、性能低下の影響はそれほど大きくないことが判明したため、将来の月夜観測実現の確実性を増すことができた。
2022年度から2023年度にかけて小口径望遠鏡の初号機を製作し、2023年度から初号機による試験観測を開始する。そのために、2022年度中に最終設計を確定し、部品を調達する必要がある。並行して、我々が担当する半導体光電子増倍素子の初期不良率や寿命を測定する加速劣化試験の手法や試験装置を準備する。2023年度にはカメラの組み立て、望遠鏡への搭載を完了する。カメラの組み立ての際は、性能検証や較正をする必要があるため、その手法を確立する。試験観測では、現地較正手法の確立や月光観測における検出器性能の評価に取り組む。
すべて 2022 2021 その他
すべて 国際共同研究 (4件) 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (1件)
Journal of Astronomical Telescopes, Instruments, and Systems
巻: 8 ページ: 014007
10.1117/1.JATIS.8.1.014007
Proceedings of 37th International Cosmic Ray Conference. 12-23 July 2021. Berlin, Germany
巻: 1 ページ: 728
10.22323/1.395.0728
巻: 1 ページ: 5
10.22323/1.395.0005