研究課題
中性子は最も単純な原子核の一つであり、およそ900秒で電子、陽子、反ニュートリノに崩壊する。その崩壊寿命は素粒子標準理論およびビッグバン元素合成理論の精密検証において不可欠なパラメータであるが、測定手法間に3.8標準偏差の有意な乖離が見られている。この乖離は「中性子寿命問題」と呼ばれており、未知の現象に起因する可能性が真剣に議論されている。この問題を解決すべく、申請者らは茨城県東海村の陽子加速器施設JPARCの大強度中性子ビームを用いて、既存の手法とは異なる測定方法により中性子寿命を高精度で決定する新しい実験を提案している。本実験では新型ガス検出器とソレノイド磁場を組み合わせ、従来最も支配的であった背景事象を大幅に低減できる。ガス検出器に導入された中性子ビームは検出器動作ガス分子により散乱されることがある。散乱中性子が検出器部材や検出器容器に衝突すると高確率でガンマ線が発生し、このガンマ線が実験精度を悪化させる背景事象の要因となりえる。そこで、検出器内壁を中性子との反応によるガンマ線発生確率が非常に低いフッ化6 リチウム焼結体で覆うことにより、この背景事象を著しく抑制することができる。また、ガス検出器に導入された中性子ビームは、そのほとんどが検出器内で崩壊せずに素通りする。先に述べたように、中性子は物質と衝突すると背景事象を生じるガンマ線を生成するため、ビームライン最下流にフッ化6 リチウム製の中性子ビームストップを設置する必要がある。本年度は検出器内壁をフッ化リチウム焼結体で覆った。また、フッ化6リチウム内壁およびビームストップの設計・作製を進める。また、荷電粒子検出面に高電圧を印加する必要があるが、これまで放電現象が見られていた。放電箇所への対応を行った。さらに、実験中に必須なエネルギー校正システムの検討を進めた。
2: おおむね順調に進展している
ガス検出器の放電対策に時間を要しているが、次年度に対策を完了させ、当初の計画通り次年度に中性子ビーム照射を実施予定である。
ガス検出器の放電対策を完了させる。本実験中に必須である、エネルギー校正システムを検出器に組み込む。検出器群をビームラインに設置し、物理実験を遂行する。
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Nuclear Instruments and Methods in Physics Research Section A: Accelerators, Spectrometers, Detectors and Associated Equipment
巻: 1045 ページ: 167586~167586
10.1016/j.nima.2022.167586