研究課題/領域番号 |
21H04490
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
柏川 伸成 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (00290883)
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研究分担者 |
内山 久和 愛媛大学, 宇宙進化研究センター, 研究員 (30869417)
久保 真理子 東北大学, 理学研究科, 助教 (40743216)
百瀬 莉恵子 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 客員共同研究員 (70631290)
服部 尭 国立天文台, ハワイ観測所, RCUH職員 (40450192)
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研究期間 (年度) |
2021-04-05 – 2024-03-31
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キーワード | 銀河 / 原始銀河団 / 宇宙の大規模構造 / 銀河形成 / 銀河進化 |
研究実績の概要 |
本研究では、すばる望遠鏡の大集光力と広視野撮像機能を活かした系統的観測データに対して独創的な手法を適用し、115-128億光年先の遠方銀河密集領域の大規模サンプルを世界で初めて構築する。120億光年先の原始銀河団については、従来の50倍にあたる約1000個の原始銀河団の検出が期待される。このサンプルに基づき、遠方銀河密集領域について、1) 初期環境効果の多様性、発現、そして進化、2) 中心銀河、活動銀河核との関係、3) 塵に覆われた星形成活動、4) 銀河密度と中性水素密度の関係、を徹底解明する。これまで検出が極めて困難であった遠方銀河密集領域に初めて実効的な観測のメスを入れ、宇宙における構造形成という文脈のもとで銀河進化について飛躍的な理解を得ることが本研究の目的である。既に世界的にリードしているわれわれの研究をさらに発展させ、周辺分野に波 及するような本分野におけるブレークスルーを狙う。 遠方銀河密集領域の大規模サンプルについては今年度試行錯誤の末に完成し、原始銀河団領域においては光度関数の最も明るいところで数超過を示すことを見出し、現在論文投稿中である。また機械学習による原始銀河団探査も一定の成果を出しこれについても論文執筆中である。1)については、星形成停止銀河からなる原始銀河団の最遠方のものを発見した研究(Ito et al. 2022)をまとめ、引き続きこの領域の多波長観測を遂行中である。2)については電波銀河周囲の最も高密度な領域について調べた研究(Uchiyama et al.2022)を発表した。3)については電波銀河および遠方クェーサーについて研究を延伸した。 そのほか、再電離期における宇宙空間の光学的厚みと銀河密集度の関係を調査した研究(Ishimoto et al. 2022)も行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに、原始銀河団カタログが完成し、シミュレーションデータによりこの正当性、妥当性の検証も完了した。原始銀河団領域においては光度関数の最も明るいところで数超過を示すことを見出し、現在論文投稿中である。申請時の計画になかった機械学習を用いた原始銀河団の検出手法についても着手し、この方法が有効であり、さらに比較的低質量の原始銀河団の検出が可能であることがわかった。現在この成果について論文執筆中である。この手法は本研究の研究対象である銀河高密度環境とは全く異なる銀河低密度環境を検出することにも応用できる。星形成停止銀河からなる原始銀河団の最遠方のものを発見した研究(Ito et al. 2022)は論文を出版し、引き続きこの領域の多波長観測を遂行中である。また、電波銀河周囲の最も高密度な領域について調べた研究(Uchiyama et al.2022)についても論文を出版した。 申請時には計画になかったものとして、再電離期における宇宙空間の光学的厚みと銀河密集度の関係を調査した研究(Ishimoto et al. 2022)についても論文を出版した。 比較的若くて低質量であるライマンα輝線銀河を検出するためのHSC用フィルターは完成し、予定通りの実験室性能を持っていることを確認した。これを望遠鏡に搭載するためのフィルターホルダーも製作し、すばる望遠鏡を運用するハワイ観測所に輸送した。これからこのフィルターを用いた観測を実行したい。 当初計画されていた追観測のうち、赤外撮像観測、赤外分光観測については観測時間の獲得に成功し、今年度観測が計画されている。電波観測についてはVLA,ALMAに向けたプロポーザルを提出、あるいは提出予定である。可視赤外分光観測については今後引き続き、観測時間の獲得に努力するとともに、系統的な探査を目的とした次の計画の遂行を始めた。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度に研究全体の総括を行い、これまでやり残した課題、新たに見つかった課題を整理し、今後の展開について計画を練る。原始銀河団カタログを用いた研究としては、撮像データからだけ求まる光度関数などの統計量が求まり、今後JWSTの撮像データなどと併せて原始銀河団メンバーの銀河特性、およびフィールド銀河との相違について調べたい。近赤外線分光観測の重要性が認識できたので、今後の研究に繋げたい。 新たな試みとして機械学習を用いた原始銀河団の検出方法については、ある程度この手法が有効であり、比較的低質量の原始銀河団も検出できるなど、一定の成果はあがっているが、さらに洗練化することで飛躍的に進展させる。また研究の妥当性の証明のために必須となる可視・赤外線追分光観測について引き続き望遠鏡時間獲得を目指す。将来、LSST,EUCLID,ROMANなどの観測によって対象領域が大幅に拡大される見込みなのでそのための準備研究を行う。 比較的若くて低質量であるライマンα輝線銀河を検出するためのHSC用フィルターを用いた科学計画は現在望遠鏡時間申請中であり、今年度中に初期成果を挙げることを目標とする。その成果を基に将来的にはJWSTでの観測計画を検討したい。当初計画されていた追観測のうち、赤外撮像観測、赤外分光観測については観測時間の獲得に成功し、観測が計画されている。可視赤外分光観測については引き続き、観測時間の獲得に努力する。現在雇用している研究員とともに、ダストに覆われた星形成活動を暴くためALMAでの追観測のプロポーザルを提出する。電波観測についてはそのほかのサイエンスケースについても検討したい。 これらの研究を振り返り今後の研究の展開を考えると、近赤外線分光観測が軸となるので、大規模観測の実現に向けて研究計画を練り始めたい。
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