研究課題/領域番号 |
21H04498
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研究機関 | 京都産業大学 |
研究代表者 |
河北 秀世 京都産業大学, 理学部, 教授 (70356129)
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研究分担者 |
小林 尚人 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 准教授 (50280566)
猿楽 祐樹 京都産業大学, 神山天文台, 研究員 (10512147)
近藤 荘平 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 技術職員 (30583413)
新井 彰 京都産業大学, 公私立大学の部局等, 研究員 (30582457)
濱野 哲史 国立天文台, ハワイ観測所, 特任研究員 (70756270)
新中 善晴 京都産業大学, 神山天文台, 嘱託職員 (60774429)
安井 千香子 国立天文台, TMTプロジェクト, 助教 (00583626)
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研究期間 (年度) |
2021-04-05 – 2026-03-31
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キーワード | 近赤外線高分散分光器 / イマージョン回折格子 / 彗星 |
研究実績の概要 |
本研究では、彗星コマ中のメタン重水素体による極めて微弱な輝線の初検出を目指し、波長3μm帯における最高感度の地上近赤外線高分散分光観測を実現するため、独自開発のイマージョン回折格子を用いた新しい近赤外線高分散分光器を開発する。 2021年度は、光学系設計、クライオスタット設計、二次元赤外線検出器の低温読み出し試験、イマージョン回折格子の常温での分光性能評価、を行った。光学系設計について、波長分解能を当初計画から2倍高い値に仕様変更して光学設計をやり直し、開発済みのイマージョン回折格子を用いてその波長分解能を達成できる設計解を得た。この変更により一度に観測できる波長域は狭まるものの、目的とする輝線強度の測定精度が向上する。この変更は、ESAの彗星探査機Rosettaの質量分析計による最新の報告を受けて、分子同定のために波長域を広くとる必要が減じたことによる。クライオスタット設計について、京都産業大学神山天文台荒木望遠鏡(口径1.3m)のカセグレン焦点に設置可能な設計解を得た。非常にコンパクトであり、他の中型、大型望遠鏡へも無理なく移設、設置が可能となっている。温度解析により光学系や赤外線検出器を十分に冷却可能であることも確認している。二次元赤外線検出器の試験について、Teledyne社製H1RG(5.3μmカットオフ)を温度約60Kまで冷却した状態で光への応答を測定した。その結果、仕様値通りのリニアリティが出ていることを確認した。イマージョン回折格子の評価について、分光系を模擬した光学系にインストールし、結像性能評価と波長分散測定を常温で行った。ここで光源には波長可変赤外線レーザー、検出器には非冷却型のPbSe二次元赤外線検出器を用いている。少なくとも波長分解能R>80,000(検出器のピクセルサイズによる測定限界)を達成し、設計通りの回折次数が得られていることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
関連する海外の最新の研究動向を鑑みて開発する装置の仕様の見直しを行ったためやや遅れが生じた。本研究開始時において彗星に対するメタン分子の重水素体CH3Dの検出例はなく、これまで研究代表者らの地上観測によってD/H比<0.003という上限値が得られたのみであり、理論モデルでは0.002-0.1の範囲で予測されていた。そのような状況の中、ESAの彗星探査機Rosettaに搭載された質量分析計によるChuryumov-Gerasimenko彗星のコマの成分分析からおよそ0.0024という値が得られたことが2021年度報告された。本研究で開発する装置の波長分解能は輝線強度の測定精度と分子の同定に必要な波長域のバランスから決定している。Rosettaの結果から理論モデルで予測される程度のメタン重水素体が存在する見込みがついたので、分子の同定に用いる波長域は絞り、その分波長分解能を上げる仕様の見直しを行った。これにより輝線強度の測定精度が向上し、より高い科学的成果の創出につながる。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き近赤外線高分散分光器の開発を着実に進める。次年度(2年目/5年計画)は、今年度行った光学設計の結果をもとに分光光学系の機構設計、および製作に着手する。また実際に使用する機械式冷凍機が光学性能に与える影響を実験的に評価し、クライオスタットへの冷凍機取り付け機構の振動対策を施す。赤外線検出器を実際に使用する真空冷却環境下で駆動し、その性能を評価する。並行して既存装置を用いた彗星観測も進める。極めて明るくなる彗星の出現が見込まれる場合は、これまでの経験と実績をもとに観測提案を行い、口径8-10m級望遠鏡に取り付けられている赤外線高分散分光器を用いたメタン重水素体の輝線検出も目指す。
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